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2023年8月3日(木)

きょうの潮流

 信仰とは、戦争とは人間の善悪とは―。第2次大戦前に米国に留学した日本人の神学生を主人公に、人びとの心の変化を描いた戯曲「善人たち」。遠藤周作の未発表作品です▼きょうから劇団民藝が初演します。1970年代後半に書かれたそうですが、現在に通じる問題も背景に。差別や格差をえぐりだしながら、憎しみの感情はどこから生まれてくるのか、ほんとうの人間愛とは何かを問いかけてきます▼「善人たち」を含む3本の戯曲は2年前に長崎市の遠藤周作文学館で見つかりました。いまそこで、生誕100年の企画展「100歳の遠藤周作に出会う」が催されています。生涯や作品をたどることで遠藤文学の魅力を次の世代につなごうと▼文学館がたたずむ外海(そとめ)の地域はキリシタンの里と呼ばれ、小説『沈黙』の舞台となった場所です。戦争中に育った遠藤は「自分の生き方や思想・信念を暴力によって歪(ゆが)められざるをえなかった人間の気持」を小説のスタート地点としました(『沈黙の声』)▼「母親が私に着せてくれた洋服」と表現したキリスト教との葛藤。魂の救済や弱者に目をむけながら、人間の悲しみや苦しみによりそい、生きることに思い悩む人びとへの救いを追い求めました▼「小説家は迷いに迷っている人間なんです。暗闇の中で迷いながら、手探りで少しずつでも人生の謎に迫っていきたいと小説を書いているのです」(『人生の踏絵』)。展示された言葉から、背負い続けた作家の苦悩と味わい深さが伝わってきます。