2022年10月22日(土)
きょうの潮流
1755年、ヨーロッパの国々にやがてフランスのベルサイユで宿命的な出会いを持つことになる人間が生まれた―。半世紀前の連載開始後、空前のブームを巻き起こした漫画はそんな一節から始まりました▼女性に生まれながらも軍人として育てられた男装の麗人オスカル、フランス王妃のマリー・アントワネット。ふたりを軸にフランス革命に至るまでの宮廷や民衆の人間ドラマを描いた「ベルサイユのばら」です▼宝塚歌劇で舞台化され、アニメにもなった作品は世代をこえて読み継がれています。50周年の今年は記念の催しが各地で。原画などが並ぶ東京・六本木の展示会には自身の青春を重ねて懐かしむ姿も▼少女漫画で歴史ものは当たらないというのが当時の常識で、著者の池田理代子さんも編集者から「おんな子どもに歴史なんかわかるわけがない」といわれたそうです。女性漫画家の原稿料は男性の半分だったといいます▼いまより差別が激しかった時代。男女の区別なく自分の才能によって人生を切り開いていってほしいとの願いを、池田さんはオスカルに込めました。男社会の中でたたかうその姿は働く女性たちの共感を呼びました▼「ベルばら」の誕生に影響した二つのことを池田さんがあげています。中学の先生から贈られた「弱者の言葉はつねに正しい。かかる社会的真理を追求されたい」という言葉。ベトナム戦争への徴兵を拒みボクサー資格を奪われてしまうムハマド・アリさんの生き方。信念に従って生きる尊さを。