2022年2月24日(木)
きょうの潮流
そのころ日本はどうだったか。携帯電話が増えはじめ、ポケモンやたまごっちがはやり、ルーズソックスをはいた女子生徒がかっぽする。戦後から50年がすぎた1996年の光景です▼その年ある法律が改正され、名も変わりました。母体保護法、旧優生保護法です。ナチス・ドイツの断種法を手本にした戦前の国民優生法を前身とする旧法は48年に成立。「不良な子孫の出生を防止する」として、障害者たちから子どもを奪ってきました▼戦後半世紀も続いてきた命の優劣。旧法のもとでおよそ2万5千人が不妊手術を受け、そのうちの1万6500人は同意のない強制でした。子を返せ、元の体に戻せと、被害者らは国の責任を問うて全国で裁判をたたかっています▼強制不妊で国に賠償命令―。一連の訴訟で、大阪高裁が画期的な判決を出しました。これまで壁となってきた、20年をすぎると損害賠償を求める権利が消えるという除斥期間。その適用を認めることは「著しく正義・公平の理念に反する」と▼今後の判決にも影響を与え、各地の原告や支援者からは喜びの声があがっています。長い間提訴できなかった被害者の苦しみにむきあった判断を国は受け入れ、責任を果たすべきです▼命の選別は格差と貧困にあえぐ今も。いまだ子を産むことをあきらめる障害者。コロナ禍の失政で犠牲になる人びと…。原告の1人は手話で訴えました。「こういう差別を二度とつくらないようにしてほしい」。だれもが幸せに生きられる社会を願って。