大阪の子どもたち壊すな
大阪大学大学院教授(教育学) 小野田正利さん
「教育基本条例案」を大阪府議会に提出した「維新の会」代表の橋下知事(10月31日で辞職)は、「自分たちが間違っているなら、4年後の選挙で落とせばいい」ということを言っていますが、そんな無責任な話はありません。自分たちは知事や議員の立場を去ればそれで終わりかもしれませんが、その間、「条例案」でゆがめられた教育を受けるのは子どもたちです。教育は取り返しがつかない。「条例案」は大阪府下100万人の子どもたちを壊すものです。
この状況を見過ごすことができず、大阪大学大学院の教育環境学講座の教授・准教授陣の有志6人で意見表明を出しました。
自尊感情育たず
アメリカではブッシュ大統領時代に成立した「落ちこぼれゼロ法(NCLB法)」(2002年)のあと、公教育はボロボロになっていると言います。「条例案」はイギリスのサッチャー改革をモデルにしたそうですが、NCLB法もサッチャー改革を手本にしています。アメリカの現状の中に、3年後の大阪があるように思えてなりません。
学力テストの学校別公表など、競争に駆り立てられる子どもたちの状況はずたずたになるでしょう。今でさえ、国立大学から有名大企業に就職した青年が、ノルマや残業に追われわずか10カ月で自殺するという痛ましいことが起こっています。"ともかく勝つ"という教育では、人との関わりの中で自分を見つめる力や、自尊感情は育っていきません
「条例案」には、教職員の締め付けだけでなく保護者をも縛る問題が三つあります。①部活動への親のボランティア強制参加②家庭教育は学校教育のためだけのもの③不当な要求をする親(モンスターペアレント)がいるものと決めつけている―です。「条例案」には、「努めなければならない」といった強い口調で、部活動へのボランティア参加や、「教育の前提として」の家庭教育などを親がやるべきことと書かれています。
追い立てられる
しかし、共働きの家庭が増える中で、すべての親が部活動のボランティアに参加できるでしょうか。荒れる子どもや、発達障害を抱える子どもに対して「それは親がしつけろ」となるのではないでしょうか。親の側も"できる人・できない人"の差が開き、追い立てられて行くことになるでしょう。
理念に「世界標準で競争力の高い人材を育てる」と書かれているように、「条例案」は全体の底上げを目指すのではなく"できるやつにだけ金をつぎ込む"というものです。子どもたちや親を道具としてしか見ていないのでしょう。
橋下知事らがやっていることが危ういものであれば、はっきりノーと言わなければいけない。子どもたちもずたずたになり、保護者は追いつめられ、いい先生たちは大阪を敬遠する―そんな取り返しのつかないことが起きる前に。(聞き手・写真 北野ひろみ)
(2011年11月2日)