教育への土足介入だ
大阪健康福祉短期大学学長(教育心理学)
秋葉英則さん
大阪府の橋下徹知事が率いる「大阪維新の会」の教育基本条例案にたいし、各界が反対しています。知事が任命した委員を含む府教育委員全員が白紙撤回を求め、府立高校のPTA協議会も撤廃の嘆願書を出しました。反対が広がるのは、知事が教育内容に介入し、教員と子どもを縛り付けるものだからです。教育を国家統制した戦前の反省から生まれた憲法と教育基本法の条理に真っ向から反しています。
条例案を見ると、知事が定めた教育の目標を達成しなければ、学校統廃合や教員免職という制裁措置をも盛り込んでいます。教員を競わせて5段階で評価し、最低ランクは免職にする。学力テストの結果を公表して市町村と学校別に優劣をつける。これらは教育の営みにとってもっとも大切な価値である自由を奪うものにほかなりません。
心の五つの特徴
「国際競争力づくり」を掲げて教育に土足で介入する、こんな橋下氏らの条例案は、子どもの幸福につながるとは思えません。
子どもの心には五つの特徴があります。一つは絶えず体を動かさずにはおれない、遊びたい心。二つ目は明日に希望をもつ心。三つ目はやったらできるという自信家の心。四つ目はさびしがり屋の心。五つ目は比較され優劣をつけられるのが大嫌いな心。この五つの子どもの心を鼓舞するような教育条件、教育環境をつくるべきです。
昼は学校、夜は塾と勉強に駆り立てられて24時間のほとんどを管理され、テスト結果を比較されたら、子どもの心は奪われていくばかりです。子どもは、子ども同士の遊びや生活を通じて知恵を身につけ社会性を育みます。このような子ども時代が奪われると、社会性が低下し、他者とのかかわりから創造性を発揮することも難しくなるでしょう。
競争教育が何をもたらしたかは明らかです。
2007年にユニセフがOECD加盟国を対象に子どもの幸福度調査をしました。「教育」「友人や家族との関係」などの側面からの調査です。最も幸福と思える国はオランダと北欧諸国でした。これらの国はゆとりある条件で子ども時代を送り、学力も高い。一方、最も心配な国は米国と英国でした。米国は子どもの権利条約を批准しておらず、公的保育園や公的医療保険もない。英国は学力テストによる学校のランク付けが長期間実施され、子どもに激しい競争を強いてきました。
教育条件整えて
教育行政の最大の任務は、少人数学級など教育条件の整備です。いいかえれば、子どもが学校生活で幸せを享受できる条件を吟味することです。知事が教育内容に介入することではありません。
橋下氏は行政の首長であるにもかかわらず、憲法の条理に反する数々の発言をしてきました。ほとんどのマスメディアが批判をしない状況もあって、その言動は増長しています。子どもの未来のためにも、この流れにストップをかけなければなりません。(聞き手 隅田哲)
(2011年10月29日)