食への努力・基準を否定
主婦連合会会長 山根香織さん
野田佳彦首相は環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加表明を急いでしようとしています。これはきっぱりとやめるべきです。
TPPへの参加は農業だけではなく、食品安全や医療など、国民生活の広範な分野に重大な影響を及ぼすことが最近の政府資料からも明らかです。国民にとってこれほど重要なことを十分な情報提供や議論もなく、国民の意見に耳もかさずに参加を決めようとする――こんなやり方が許されるでしょうか。
米の要求が通る
主婦連は、TPP参加に反対してきました。TPPは例外を認めない関税の撤廃をめざしますから食料や農業に大きなダメージを与えます。それだけではありません。参加国の市場に海外の企業が参入する妨げになるものを「非関税障壁」として撤廃するのが目標です。食の安全や保険、金融などの国内規制の緩和・撤廃が求められることになる、と警告してきました。
食品の安全基準が危機にさらされると思います。例えば輸入食品の検疫。
今でも、政府は日米首脳会談でオバマ米大統領に求められて、BSE(牛海綿状脳症)対策の輸入制限を緩和する検討を始めています。TPPに参加してアメリカに国内基準の緩和を求められた時、「国民の食の安全・安心を優先します」といって断るようなことができるでしょうか。
食品添加物やポストハーベスト(収穫後使用農薬)、遺伝子組み換え食品の規制も、アメリカの要求どおりフリーパスになってしまうのではないでしょうか。
安心は国の責任
私たちには安全が確立していない食品に対して「ノー」という権利があるはずです。主婦連は有害添加物の禁止や遺伝子組み換え食品の商品表示などを求めてきました。TPP参加で食品安全への国民の努力、基準のあり方そのものが否定される懸念があります。
政府は、TPP参加で経済の国際的な競争力を強めるといいます。しかし、国民の幸福度を測る指標は大企業の輸出入額など経済指標だけではないはずですし、今参加することで日本に良い影響があるとは思えません。
国民が安全な食を安心して得ることが出来る―消費者としての最低限の権利であり、その確保は国の責任だと思います。その実現に国は努めてほしい。(聞き手 大小島美和子/写真 山形将史)
(2011年10月28日)