企業に社会保障の責任を
淑徳大学准教授・社会保障審議会介護保険部会委員 結城康博さん
私は消費税増税は、高齢化社会を支えるには必要ではないかという考えです。しかし、その立場からしても今回の「社会保障と税の一体改革」と銘打った消費税増税法案は阻止しなければならないと思っています。
「消費税5%引き上げ分が社会保障サービスや給付に直結する」と思っている国民も多いのではないでしょうか。しかし、サービスは、部分的にしか上がらず、国債の償還に充てられます。しかも、増税にあわせて「効率化」の名による医療、介護、年金の給付費削減が予定されています。
政府は社会保障とは、「自助(家族)、互助(地域)、共助(社会保険)、公助(福祉)」だといっていますが、ここには「企業」の役割が抜けているのではないでしょうか。
「グローバル化」の名の下に非正規雇用が広がる一方で、大企業の内部留保は多額になり、一部の企業に資金が集中しています。それを考えれば、国民に消費税増税を求めながら法人税をこれ以上引き下げるべきではありません。むしろ企業が、社会保険料と税の負担を果たし内部留保を社会に還元することこそ求められています。
財源論で一致
社会保障の財源として大企業への減税の見直しや富裕層への優遇税制の是正を打ち出している点で日本共産党の提言と私の考え方は重なります。
財政健全化にしても、消費税増税だけで財政健全化を目指すことには限界があり、所得税、法人税、相続税を含めた真の「税制の抜本改革」が必要です。「国際競争力のためには、法人税を下げろ」という指摘があります。しかし、法人税を下げても、国内に需要が見込めない状況では、大企業は海外移転をやめず、国内での雇用創出は見込めません。
社会保障の安定財源確保のためには、雇用環境を整え、正社員の層を多くして社会保険料や税を負担する人を増やしていく必要があります。
内需をあたためるために、社会保障分野に公費を入れて給付を充実することは有効です。看護師、介護士、保育士などの雇用拡大にもつながり、経済効果も期待できます。
公務員の役割
また、「公務員たたき」があおられていますが、家族や地域の機能が減退するなか、今後、認知症の高齢者や虐待を受けた児童など社会的弱者が増えることが予想されます。そういう人たちを支えるのは、民間福祉従事者とともに公務員としての身分である福祉専門職や保健師なども重要です。そして、「貧困ビジネス」をはやらせないためにも、公的機関の役割を重要視していくべきです。
貧困と格差を拡大する新自由主義路線をこのまま突き進むのか。今、分岐点にあると思います。
聞き手 鎌塚由美( 2012年3月26日付)