公務員攻撃、傍観は危険
龍谷大学教授(労働法) 脇田滋さん
橋下市長が行った「職員アンケート」は労働組合への露骨な介入です。府労働委員会が、違法な「支配介入」の不当労働行為を防ぐために調査続行を差し控えるよう勧告したのは当然です。橋下氏は、アンケートはすべて廃棄し、「二度としない」と謝罪すべきです。
1935年、アメリカで「不当労働行為」が法制度化されました。労働関係では使用者と労働者の力がまったく違い、労使対等に労働条件を決定するためには労働組合が必要です。労働者の「団結の自由」を尊重し、使用者が組合加入や組合活動を妨害することを「不当労働行為」として禁止することになったのです。
恥ずべきこと
ILO(国際労働機関)は、48年、国家や自治体が労働者の団結権を尊重する「結社の自由」を保障する87号条約を採択し、49年、団結権や団体交渉権を定める98号条約を採択しました。日本もこれらの条約を批准しています。
公務員にも団結権があります。昨年、英国では大規模な公務員ストが整然と行われました。公務員の団結権保障や身分保障には、時の首長や政治権力に左右されずにものをいえるように期待する面もあります。
アンケートの「労働組合をどう思うか」「どんな活動をしているか」という質問項目は、明らかに組合を敵視・特別視する不当労働行為であり、ILO87号、98号条約に反しています。大阪市長が権力的に、ILO条約違反の「組合イジメ」を強行していると世界各国に伝わっています。国際都市として恥ずべきことです。
とくに、日本国憲法19条は「思想・信条の自由」「内心の自由」を保障しています。これは「踏み絵」を禁止するもので、憲法が保障する最も基本的な自由権です。権力者がこれを踏みにじることは決して許されません。
民間の組合も
橋下氏は、しきりに〝公務員は政治に関わってはいけない〟と一般化した表現を使いますが、明らかに間違っています。公務員も、一国民として政治活動を行う基本権保障を受けます。政党支持だけでなく、政党加入も自由です。ただ、具体的活動の一部について地方公務員法36条で制限がありますが、職務などその範囲・内容は限定されています。
いま、大阪市の公務員が攻撃されています。自分に関係がないと傍観していては危険です。その手法を民間企業使用者が模倣する危険性があるからです。
つまり、橋下氏の攻撃は、公務員だけでなく、労働者全体の権利侵害につながるものであり、大阪市長が違法な侵害手法を広めていると考えるべきです。
組合側にも非正規公務員や地域の低賃金労働者などの底上げを目指す取り組みが遅れた弱点があります。
しかし、橋下氏はそれを「大阪市の公務員は恵まれている」とうまく攻撃材料にしており、いかにも自分が市民を代表しているかのように言っています。
実際は、まったく逆です。橋下氏のやり方がまかり通れば、公務員組合だけでなく、民間の組合もつぶされます。人権侵害であり、労働者全体の権利侵害の問題であると捉えるべきです。
聞き手 北野ひろみ/写真 中祖 寅一( 2012年3月25日付)