しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

吉永純教授.jpg孤立死、困窮救えぬ構造

花園大学社会福祉学部教授 吉永 純さん

 貧困や生活保護の問題に取り組む民間団体で「孤立死」「餓死」の実態を究明する調査団を結成しました。私が会長を務める全国公的扶助研究会も参加します。調査後、防止へ向けて提言を行います。

 それぞれの事例に共通する問題点は、貧困の広がりです。低所得者の割合を示す貧困率は16%にまで達しています(2009年)。それにもかかわらず、行政は生活困窮者への対応を十分とらない上、後手に回っているということが、相次ぐ事例で明確になりました。

通知出しても

 さいたま市北区の60歳代夫婦と30歳代の息子の3人は2月、所持金がわずか数円、電気・ガスは料金滞納で止められた状態で餓死しているところを発見されました。福祉事務所に相談しなかったと報道されています。

 厚生労働省は2月23日、地方自治体に、電気ガス事業者等と連携で困窮者の把握を求める通知を出しました。同様の通知を2000年4月以降、生活困窮による死亡事例発生のたびに6回も出しています。しかし、民生委員が電気ガス事業者等と連携して生活困窮者を発見し、役所に連絡しても、適切な対応を取るか疑問です。

 厚労省は1日、社会・援護局関係主管課長会議で、生活保護相談で開始申請の適切な取り扱いの徹底を求めました。そこで示された不適切な事例に、札幌市でライフラインを止められ、3回も生活保護の相談をしながら受給できず、2月に死亡したところを発見された40歳代姉妹と思われる例もあります。
 国や自治体は、困窮者を必要な福祉制度へつなげる職責を果たしているとはいえません。

 行政は、社会福祉サービスの内容を住民に周知徹底し、必要なときに必要な制度を利用できる体制を整えなければなりません。ところが、社会保障費の財政負担を問題視し、生活保護の不正受給対策のみを声高に叫んでいます。生活困窮者にとっては社会福祉制度がますます使いづらい状況となっています。

命守る対応を

 見守りのネットワークのあり方も再考が必要です。貧困は世代に関係なく広く深く進行しています。従来のように対象を「65歳以上の高齢者世帯」のみとするのでは用をなしません。

 こうした構造的問題を是正しなければ、今後も「孤立死」「餓死」は起こることでしょう。阪神・淡路大震災後の経験に照らすと、東日本大震災の被災地で孤立死が続発するのではないかと懸念します。

 電気、ガスなど民間も含めライフライン業者から料金滞納者の行政への通報体制の構築や、滞納があってもすぐには供給停止にしないルール作りが必要です。また通報を受けた行政は、生活保護を含めた生活困窮者対策を最大限活用して、命と暮らしを守る対応を速やかに行うべきです。

 聞き手 岩井亜紀( 2012年3月20日付)


pageup