観光「風評」東電は賠償を
全旅連東北ブロック協議会原発風評被害賠償対策委員長 松村讓裕さん
原発事故から1年たちましたが、東北の観光業の風評被害は甚大です。
文科省の「中間指針」で定めた福島、茨城、栃木、群馬4県以外で、風評被害が認められたのは、千葉県の一部と山形県の米沢地域だけです。このペースでは、福島以外の東北の風評被害はいつになったら賠償されるのか分かりません。
当初、私は賠償より復興に力を合わせるべきだと思っていました。しかし東電は、文科省が「あくまで目安」という「中間指針」を盾に風評被害を認めようとしません。私は、泣き寝入りするのは秋田県旅館組合の理事長として許されないと決意しました。東北6県の旅館組合で「原発風評被害賠償対策検討委員会」をつくり、一緒に賠償を求めています。
中立基準なし
風評被害について、「中間指針」などは、被害が類型化できれば賠償するとして、農産物の出荷制限があった地域等を例に挙げています。しかし、それは「風評被害」ではなく、「実害」です。
さらに、被害との相当因果関係を、被害者である私たち旅館組合に示せというのです。
東北を旅行しようとした人が、科学的根拠の乏しいうわさで今年は関西に行こうかと思う、それが風評被害です。予約前に中止するわけですから、証拠を出しようがない。東電こそ〝風評被害ではない〟という証拠を示すべきではないですか。
山形県の旅館組合はこれまで7回、東電と交渉しました。温泉地ごとに月別の売り上げ、客数など、東電が再三要求した資料を出しました。その結果、認められたのは米沢だけ。
中立な審査基準は何もありません。あるのは〝東電のルール〟です。
雇用が大問題
私は東京・日本橋で銭湯を営む3代目として生まれ、親の代の時に秋田に進出。バブル崩壊後の借金をやっと返し終えた時、大震災に遭いました。
不景気が続き、売り上げが伸びず、旅館・ホテル業はどこでもこの10年で3~4割コストダウンしています。みんな必死で頑張って生き残ったのに、震災で売り上げが落ちたら、どの店もつぶれてしまいます。
組合員から「借金があり廃業しようにもできない」という相談が相次いでいます。公的融資を受けても、従業員の給料などでなくなってしまいます。風評被害がとりわけ深刻な秋田では、雇用をどう維持するかが大問題です。観光を推進するにも働き手がいなければどうにもなりません。
もともと原発は国を挙げて進めてきた問題。早くこんな問題を終わらせ、復興に力を合わせられるよう賠償を進めてほしい。
聞き手・写真 唐沢俊治(2012年3月14日付)