内心の自由侵す「踏み絵」
日本キリスト改革派千里山教会牧師 弓矢健児さん
大阪府に続き、大阪市でも全国初の「君が代」起立強制条例が可決されたことに大きな危機感を抱きます。「君が代」条例も、橋下徹市長が制定しようとしている「教育」「職員」基本条例案、「職員アンケート」もすべて重大な憲法違反です。
精神的な苦痛
「君が代」起立強制ですが、「君が代」は天皇賛美の「讃美歌」です。東京都でピアノ伴奏を拒否した音楽教師はキリスト者で、天皇を神とする考えに基づき礼賛に用いられた「君が代」を伴奏することは、命を断つことも考えたというほどの精神的苦痛なのです。「国歌・国旗法」が制定されたとき、政府は「強制してはならない」と答弁しています。橋下市長の「組織マネジメント」とは全く違う問題なのです。
松井一郎知事が府議会に提出した「教育」「職員」条例案は、「大阪維新の会」の案を修正したものの、教育への政治介入にあたる首長の教育目標決定権や教育委員の罷免権は変えませんでした。
「君が代」起立を含め、「職員」条例は3回連続で職務命令に違反すれば免職できるという規定は変えませんでした。
教育は人格の完成が目標です。だからこそ内心の自由は何より尊重されなければなりません。「教育」条例がめざしているのは、権力に都合のいい人間を育成する現代版の「富国強兵」策です。
そのために異を唱えるものは徹底排除し、上意下達の組織にする。そのためには思想・良心の自由、内心の自由などといわれては困るのです。それだけではなく、橋下市長は道徳教育を監視すると言い出しました。戦前の教育体制を思わせます。恐ろしいことです。
阻止するため
市職員への「アンケート」も、まさにこうしたことと一体にあると思います。「君が代」起立が教師の「踏み絵」にされているように、アンケートを「踏み絵」に、どういう信念や主張をもっているかを権力が明らかにさせようとしています。とんでもないことです。
思想・良心の自由を侵してはならないとする憲法第19条が求めていることは、言いかえれば政治的な信条を明らかにすることを強制してはいけないということです。
橋下市長と「維新の会」のやり方は、戦前のように社会を全体主義化していくやり方です。橋下さんは選挙や議会があるから独裁じゃないといいますが、ヒトラーもそうでした。何度も国民投票して圧倒的支持で独裁者となりました。多数派、「民意」、「民主主義」の名のもとの独裁です。非常に危険な方向にすすんでいます。
ヒトラーの支配に抵抗したマルチン・ニーメラー牧師が第2次世界大戦後、なぜナチスを阻止できなかったのかとして、共産党や社民党が弾圧された時、学校や組合が弾圧された時、自分は関係なかったので黙っていたが、教会が弾圧された時、私は牧師なので立ち上がったが、もう遅かったという詩を書いています。絶対にそうしてはなりません。
聞き手・写真 大阪府・小浜明代( 2012年3月7日付)