全世代の生活に影響
生存権裁判を支援する全国連絡会会長・金沢大学教授
井上英夫さん
東日本大震災では、多くの人たちが被害を受け苦難にさらされています。人間の復興へ向けて生活保護が活用されるべきです。その生活保護制度を後退させないために、「生存権裁判」がたたかわれています。子どもから高齢者まで、全ての世代に大きな影響のある裁判です。
裁判の正念場
全国9カ所で102人の原告が、生活保護の老齢加算廃止処分の取り消しを訴えています。生活保護基準は憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を満たしているのか、手続きは人々の尊厳を侵害していないか、半世紀前の「朝日訴訟」以来の裁判です。
福岡高裁では原告が逆転勝訴し、老齢加算廃止は違法とされました。ところが北九州市・国が上告し、最高裁はこれを受理してしまいました。24日、口頭弁論を開きます。
福岡高裁の勝利判決が覆されようとしています。さらに東京訴訟は28日に最高裁で判決がだされます。いまがたたかいの正念場です。
生活保護利用者は昨年11月、208万人近くになりました。現在の貧困の拡大からすれば増えて当たり前です。経済や雇用政策など貧困の大本を正す必要があります。
生存権裁判は、高齢者だけでなく、若い人にとっても意義がある高齢「期」を問う運動です。いま若くても誰もが高齢期を迎えます。その高齢期は豊かでなければなりません。
国は、加算はおまけだから削られても困らないだろう、といいます。しかし、老齢加算はおまけではありません。もともと低い金額に高齢期に特有の必要分を加えることで、最低基準を満たすのです。老齢加算は、不足分を補うもので、プラスアルファではないのです。
老齢加算の廃止は、生活保護基準そのものの引き下げです。生活保護法56条は、すでに決定された保護を不利益変更することを禁じています。仮に、変更するには「正当な理由」がいります。福岡高裁は、国・北九州市が老齢加算廃止を決定したのは、「正当な理由」のない不利益変更で、56条に違反するとしました。老齢加算の廃止で2割も保護費が減らされ、食費や生活費を削り、葬式すらでられない生活を余儀なくされているのですから、原告の訴え、福岡高裁の判決は大多数の国民から支持されるものと言えるでしょう。
基準守るため
「最低生活」を示す生活保護基準は、最低賃金、そして就学援助、年金、介護、保育・福祉サービス等の給付、税金、保険料、利用料等の負担に連動しています。その引き下げは、子どもから現役労働者、高齢者まで国民生活に甚大な影響を与えます。
憲法25条の2項は、国に社会保障の向上・増進を義務づけています。基準引き下げはこれに反することも強調したい。
生存権裁判の勝利は、野田政権の社会保障削減と増税の「一体改革」をやめさせ、豊かな国民生活を実現させる福祉国家の建設につながるでしょう。
聞き手 岩井亜紀/写真 吉武克郎( 2012年2月16日付)