歴史・風土に根ざす安全壊すな
北海道標茶町長 池田裕二さん
環太平洋連携協定(TPP)で、農林水産業に深刻な影響が出ると試算されています。地域経済も破壊されます。農業で生計を立てる人はもちろん、地域の立場からすれば断固反対するのは当然です。日本が歴史や風土に根ざしてつくりあげてきた安全など、世界に誇るべきものも壊してしまいます。
違い補完して
TPP問題は、食料生産のあり方や日本にとっての農業の意味を、生産者と消費者双方に深く問いかけていると思います。
それぞれの国は成り立ち、自然環境、文化、食習慣、土地条件が違っている。食料生産では、その違いを互いに補完しあうのが基本のはずです。すべてを競争原理で割り切り、コストが一番安い国ですべてを生産し、強いものが勝ち残るのが合理的といえるのでしょうか。資源の有効活用という点からみてもおかしい。グローバルとは、多様性のある世界ですべてが平準化されることではなく、全体としても、地域ごとにも限界があるという意味でのグローブ(地球)のはずです。限りあるものをみんなが補い合い、使うための貿易のはずです。地域ごとの特性を十分発揮することこそ必要です。
恵まれた条件
日本には恵まれた自然条件があります。温暖湿潤なアジア・モンスーン気候で、肥沃な土地条件もあるし、水もある。それを生かして、日本の食料生産を守っていくべきです。
自分が生きている土地の水や土で生産されたものが一番安心できるのではないでしょうか。何でもかんでも安いものを世界から集めればいいということではない。また、生産物の移動にはエネルギーを消費します。CO2をたれ流して世界中からモノを集めてくることがいつまで許されるのかという問題や、農産物の長距離輸送には保存料や防カビ剤などの薬品の使用に対する不安もあります。TPPで食品安全基準の緩和が要求されることは当然想定されます。
酪農・畜産のあり方も問われています。本来、酪農・畜産は人間が食べられない草を牛が食べて、牛乳や肉を生産するものだったはずです。ところが効率性と生産拡大を目指す中で、本来牛が食べない穀物を食べさせてきました。乳量は増えたし脂肪分も多くなった。アイスクリームにはいいというが、結果として病気にかかりやすく長生きできない牛になっています。「健康な牛」という基本に立ち返るときではないか。ふん尿の自然循環も考えていくべきです。
生産側の食の安心・安全への努力も含め、日本の酪農を続けていくことの意義を消費者に伝えていく。そうすれば、TPP問題をめぐり、都会の人々も農業を他国にすべて委ねていいとはならないはずだと思うのです。
聞き手・写真 中祖寅一(2012年1月17日付)