黒字の地下鉄を財界に
「冠は『統合』本部だが、個別の事業を見ていくと民営化という話が非常に多い」。大阪府市統合本部の特別顧問・上山信一慶応義塾大教授はこの間の講演でこう語ってきました。
統合本部は6月19日、3年後までに市営地下鉄・バス、ごみ収集、下水道管理を民営化し、市職員(約3万8000人)のうち約1万人を非公務員化する方針を決めました。「公」の意義などどこ吹く風で野放図な民営化を押し付けたのです。
とりわけ、「なぜ民営化するのか」と疑問の声が起こっているのが市営地下鉄です。
民営化ありき
1933年に開業した市営地下鉄は、いまではニュートラムを含め9路線137・8㌔㍍の路線網を持ち、1日あたり228万人が利用する市民の足です。
2005年度以降、補助金(約100億円)を除く収支でも毎年黒字を確保。その額は単年度で148億円(10年度)に上ると統合本部でも報告されている「優良」事業です。
5月8日の同本部の会合では、地下鉄民営化のプロジェクトチームのリーダー自身が「02年度に3000億円近くあった累積欠損金も10年度決算で全国の公営地下鉄で初めて解消した」「そこそこの潜在力を持った事業体」と高く評価しているほどです。
「大阪市をよくする会」の成瀬明彦事務局次長はこう指摘します。
「市営のまま地下鉄の黒字を赤字の市バス・赤バス(コミュニティーバス)に投入すれば、交通ネットワークの整備が進み、暮らしやすさがアップします。駅のバリアフリー化や利便性向上、震災・津波対策にも使えます。市民にとって民営化の必要性はありません」
ところが、上山氏は「民間でできることは民間に」という考えから、かねて「地下鉄は日銭が4億円も入る独占的事業。合理化と人件費の正常化、資産の有効活用だけが課題という眠れる超優良新会社だ」と目をつけてきました。
この民営化を要求してきたのは関西財界です。
手放しで歓迎
橋下氏は今年2月、市交通局長に京阪電鉄の子会社である京福電鉄の藤本昌信副社長を登用すると発表。その際、大阪商工会議所の佐藤茂雄会頭(京阪電鉄取締役相談役)は「経済界が提言していた民営化がやっと実現に近づいた」(「産経」)と手放しで歓迎しました。
成瀬さんはいいます。「橋下さんは、市民の税金や乗車料金で築き上げてきた地下鉄を財界に売り渡そうとしているとしか思えません。地下鉄はいま建設すれば3兆円以上もかかる市民の財産です。公営で存続してきたのは、それが大都市での生活に必要不可欠なインフラだからです」
(「赤旗」2012年7月10日付)
[目次]