2024年4月23日(火)
皆の願いでつくる学校 奈良教育大付属小(2)
創意工夫を「不適切」
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はじまりは、2023年4月、奈良県教育委員会の吉田育弘教育長の後押しで同県下市(しもいち)町の教育長だった小谷隆男氏が国立の奈良教育大学付属小学校(付小)の校長に赴任したことでした。
国立大学付属校では、校長は大学教授が務めていましたが、国の方針のもと4割近くで都道府県教育委員会からくるようになりました。奈良教育大学付属小も21年から受け入れました。
付小では、学習指導要領をふまえつつ、子どもの実態に合った教育を実践。毛筆の指導は準備や片付けがしやすい筆ペンを使っていました。道徳は子どもの発達に即して自治の力を育むものとして、毎週の全校集会などで考え合うことを中心としてきました。
県教委から通知
しかし、小谷氏は赴任早々、学習指導要領などの該当部分を教員に配り、現状は「法令違反」だとして、「毛筆を使用しましょう。筆ペンはペンです」「(書写や道徳の)教科書を使わないと、未履修となる疑いが生じる」と言い出しました。
本紙の取材に対し小谷氏は、23年5月から6月にかけて、「毛筆をしなくてもいいのかと県の吉田教育長(当時)に相談した」といいます。
同年5月末、吉田教育長から大学に「外部から教育課程の実施等に関し法令違反を含む不適切な事案がある話を受けている」と連絡がありました。その後、教育長から付小に「道徳科の年間指導計画」「教科書の無償給与と採択」などについて調査するという「通知」が届きました。
しかし、県教委が所轄していない国立大付属校の教育課程を調べる権限はありません。かわりに大学が調査をすることになりました。
大学が昨年9月末にまとめた調査の中間報告では、たとえば理科は「学習指導要領に基づき適正に行っています」としていました。小学3年で習う単元を4年の単元と関連付けて学ぶなど「子どもが少しでもわかりやすくする工夫」がされていることを指摘していました。
ところが、同10月に文部科学省に学長や副学長らが呼ばれた後、再調査が行われることになりました。
三木達行副学長は教員に再調査の理由を「文科省から『設備要求を2億円しているけれど、この問題の行く末が見えない限りは財務省とたたかえない』という話をされている」と説明しました。
再調査後、大学が今年1月に公表した最終報告書は理科について12項目、全体で30項目の「不適切」事項があり、「(背景に)閉鎖的な側面があった」などとするものでした。
指導要領参考に
しかし、実際の授業は「不適切」どころか、指導要領を参考に創意工夫が積み重ねられていました。3月13日の衆院文部科学委員会で日本共産党の宮本岳志議員の質問に、文科省も「非常にモデル的でよい教育が行われていた」と答弁しました。
付小に2人の子どもを通わせる保護者は「授業は内容をつめこむのではなく、子どもの気持ちを大事にかみくだいて進めてくれます。だからわざわざ選んだ」と話します。
名古屋大学名誉教授の中嶋哲彦さんは言います。「法律が求めているのは、子どもの学び成長する権利の保障です。子どもがよくわかるように工夫することが教員の専門性です。機械的な『法令順守』で子どもの権利を奪うことは本末転倒です」(つづく)
学習指導要領 文部科学省が示している小中高校の教育課程の基準。学校教育法施行規則に基づき文部科学省告示として出され、ほぼ10年に1度改定されます。