2022年5月19日(木)
解説
規制委が了承
汚染水放出強行 不信・矛盾広げる
東京電力福島第1原発事故で発生した高濃度のトリチウム汚染水(アルプス処理水)を薄めて海に放出する計画。社会的合意がないまま、政府と東電が、条件だけを整えて実施に突き進めば、社会にさらなる不信と矛盾を広げて、漁業をはじめ福島や近隣県の復興に深刻な打撃をもたらすことが懸念されます。
事故発生以来、汚染水タンクからの漏えいや海洋流出などの事故が相次ぎました。対策をめぐって、政府と東電はこれまでデータ隠しや後手の対応など、無責任で不誠実な態度を続けてきました。漏えい事故直後に安倍晋三首相(当時)が五輪招致の演説で、汚染水の状況は「コントロールされている」と安全宣言したのは象徴的です。
汚染水問題に復興を妨げられてきた漁業者たちは2015年、対策に協力するため、原子炉建屋周辺の地下水をくみ上げて浄化処理した後に海に放出する「サブドレン計画」を“苦渋の選択”として受け入れました。
その際、アルプス処理水についてはタンクで厳重保管し「漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わない」よう要望。政府と東電は「関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」と約束しました。
漁業者だけでなく地元自治体をはじめ国内外に、反対や懸念の声が広がっていました。
しかし政府は、タンクが満杯になるとして“安くて簡単な方法”である海洋放出ありきの姿勢で処分方法の検討を進めてきました。
そして昨年4月、約束を破って菅義偉・前政権が海洋放出方針を決定。岸田文雄政権もその強権的なやり方を踏襲し、「説明を尽くす」と言いながら、社会的合意を後回しにして放出に向けた準備を着々と進めています。
約束を守らない政府が信頼されるはずがありません。このまま強行すれば新たな風評被害と国民の分断を生むだけです。海洋放出方針は撤回すべきです。(「原発」取材班)