2022年5月12日(木)
主張
大雨への備え
早期に避難できる取り組みを
気象庁が4日の沖縄地方に続き、鹿児島県奄美地方が梅雨入りしたと11日発表しました。週末にかけて、前線が停滞するため、西日本から東日本の太平洋側でも大雨の恐れがあるとの予報が出ています。前線の活動によっては、災害級の雨になる地域もあるとされます。本格的な雨のシーズンが始まりつつある中、水害や土砂災害から住民の命を守る備えを強めることが急がれます。
線状降水帯の予報開始
大雨による災害は毎年のように起きています。気候変動の影響によって激甚化も顕著です。行政が大雨の危険についての情報を分かりやすく発信し、早めの避難につなげる仕組みを各地域でつくることが欠かせません。
近年、集中的な豪雨をもたらす「線状降水帯」という現象に注目が集まっています。発達した積乱雲が次々と発生して帯状に連なり、数時間にわたって同じ場所に強い雨を降らせます。2018年7月の西日本豪雨、20年7月に熊本・球磨(くま)川が氾濫した九州豪雨をはじめ、各地で多くの人命を奪う被害をもたらしてきました。
これまで線状降水帯は予測が困難とされてきましたが、気象庁は発生を予報する取り組みを6月1日から開始することにしました。当面は「九州北部」など大まかな地域を対象に、半日前からの情報提供を行います。観測機器の整備・強化を進めることや、スーパーコンピューターを活用するなどしてさらに精度を向上させることをめざします。
線状降水帯をめぐっては昨年、発生が確認されると「顕著な大雨に関する気象情報」を出す仕組みを導入しました。しかし、深夜の場合、情報を出されても大雨が降りしきる中では、多くの住民は避難をちゅうちょしてしまう場合が少なくありません。
新たな取り組みについて、気象庁は、深夜や未明の状況を予測して明るいうちに避難の構えができるようになれば、としています。自治体が住民に危険を迅速に伝達し、早期の避難に結び付けるようにしなければなりません。
この仕組みも今から始める段階であり、万全ではありません。大雨による被害は線状降水帯だけがもたらすものでもありません。さまざまな大雨を想定し、ハザードマップなどで浸水や土砂崩れの危険箇所を住民に周知徹底するとともに、避難所や避難のルートや段取りについても確認ができる取り組みが必要です。とりわけ高齢者、障害者、幼い子どもや妊婦などには特別な手だてが求められます。
気候変動は大雨の頻度を高め、雨量もこれまでとは大きく様相を異にしています。「これまで安全だった」という過去の経験では通用しない事態が相次いでいます。行政と住民が知恵を出し合い、地域の防災・減災を進める不断の努力を続けることが必要です。
救える命が失われぬよう
コロナ禍でも住民が安心して避難できるようにするためには、避難所の感染対策が重要です。この間の経験や教訓を生かし、感染した人の専用スペースの確保や仕切りの設置、ホテル避難など事前の準備も含め、自治体任せにしない国の支援が不可欠です。
救える命が失われることがないよう、国は「災害国」にふさわしい役割を果たすべきです。