2022年5月4日(水)
主張
「反撃能力」保有
全面戦争も想定の提言は重大
自民党は4月下旬、岸田文雄政権が年末に予定する「国家安全保障戦略」などの改定に向けた提言を首相に提出しました。提言は、相手国のミサイル拠点を直接たたく「敵基地攻撃能力」について、名称を「反撃能力」に変えた上で保有を求めました。加えて、「反撃」対象の範囲を「敵基地」だけに限定せず、「指揮統制機能等」にも広げました。相手国との全面戦争にもつながる危険極まりない内容です。戦争放棄をうたう憲法9条と絶対に相いれません。
核の保有にもつながる
提言が「反撃」目標に「指揮統制機能等」も含めたのは、ミサイルが固定された基地からではなく、移動できる発射台付きの車両や潜水艦から撃たれると、「敵基地攻撃」が可能になっても、これらを直接たたくのは極めて困難なことが背景にあります。そのため、ミサイル発射を指示する「指揮統制機能等」を攻撃する必要があるとされます。
「指揮統制機能等」とは、具体的には何を指すのか。日本共産党の穀田恵二議員は4月27日の衆院外務委員会で、日本の例を挙げて明らかにしました。
防衛省は、東京都新宿区市ヶ谷の同省庁舎内にある中央指揮所について「自衛隊の指揮命令中枢」(2007年5月31日、大古和雄防衛政策局長、参院外交防衛委)と説明しています。鬼木誠防衛副大臣も、穀田氏の質問に「自衛隊の指揮、通信等において必要不可欠なもの」と認めました。
この中央指揮所には中央指揮システムが設置されています。首相官邸のホームページに掲載されていた防衛省資料は「防衛大臣が指揮・統制を行うためのシステム」と記しています。鬼木副大臣は「中央指揮システムは、総理官邸や関係省庁、在日米軍とつながっている」ことも認めました。
穀田氏が述べたように、自民党の提言が「反撃」の範囲に「指揮統制機能等」を含めたのは「日本で言えば、防衛省本省、総理官邸、関係省庁などを攻撃対象にする」ようなもので、「相手国を丸ごと攻撃対象にする」ことになります。
林芳正外相も「(穀田氏の指摘は)非常に説得力があるから、『そうだ』と言いそうになる」と答えざるを得ませんでした。穀田氏が防衛省に質問を事前通告した直後、中央指揮システムに関する同省資料が首相官邸のホームページから削除されたのも、核心を突かれたからなのは間違いありません。
防衛省の中央指揮所は、有事の際に攻撃されることを想定して地下に置かれています。他国も同様の対策を取っています。首相官邸で危機管理を担当していた柳沢協二・元内閣官房副長官補は、自民党の提言が攻撃対象に含める「指揮統制機能」について「通常、堅固に防御されており、自衛隊が持つ巡航ミサイルではたたけない。核・非核両用の弾道ミサイル保有につながることになる」と指摘しています(「東京」4月22日付)。
参院選でノーの審判を
今回の提言は、自民党の意思決定機関である総務会の了承を得た点で「異例」(小野寺五典党安全保障調査会会長)です。核保有にもつながりかねない提言が自民党の意思として出されたことは極めて重大です。「敵基地攻撃」能力の保有を許さない意思を目前に迫った参院選で示すことが必要です。