2022年5月2日(月)
主張
所有者不明土地
「放置」されない対策を着実に
所有者が不明の土地が増えて各地で問題になっています。日本の人口減少・少子化の中で土地へのニーズが低下し、所有者が亡くなった後に相続登記がされず、現在の持ち主が分からなくなっている宅地や山林、農地などが急増しているとされます。
誰も管理しない「事実上の放棄土地」が地域一帯にもマイナスの影響を与えることが懸念されます。安全で住みやすい地域づくりを進める上でも対策が不可欠になっています。
防災などでマイナス影響
国土交通省によると、全国の土地の約20%が所有者不明土地だと推計(2016年)されています。その土地を全て合わせると約410万ヘクタールにもなり、九州より広い面積に達します。
親族の死去などで土地を引き継いだ人が固定資産税の負担を避けるため登記手続きを敬遠するために生じているケースが少なくありません。
所有者が分からない状態なのできちんと管理が行われず、ごみが不法投棄されたり、土砂崩れなどの危険箇所がそのままにされたりしています。防災工事を進めることができないなど、地域の災害対策にとっても大きな課題となっています。自治体が所有者探しに時間や費用を要している場合もあります。
政府は18年、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(所有者不明土地利用特措法)を制定しました。20年は、土地の適正な管理の確保を明確化した土地基本法を改定しました。21年には、所有者不明土地の発生予防と利用の円滑化を目的とした民事法制の抜本的見直しも行いました。
開会中の国会では、所有者不明土地利用特措法が改定されました。同改定法では、所有者不明土地をNPOや企業などが公共目的に利用できる「地域福利増進事業」に、防災施設や再生可能エネルギー発電設備の整備を加え、土地使用権の上限を延長しました。
所有者不明土地が有効に利用され、地域住民の共同の福祉や利便の向上を図る運用が重要です。同時に、乱開発につながらないよう再エネ施設は小規模に限定するなど厳格な対応も求められます。
所有者不明土地が増加する背景には、地方の過疎化の進行、高齢化の進展などで土地を取得し、利用するメリットの希薄化などが指摘されています。
土地の規模や所在する場所など事情はさまざまですが、所有者の権利が不当に制約されず、過大な負担とならないよう丁寧な対策を検討し、着実に進めていくことが必要です。
地域産業を支える施策を
なにより、東京一極集中を改め、地域を支える政策への抜本的転換が欠かせません。コロナ禍で地方移住への関心も高まっています。「U・I・Jターン」の支援を拡充し、若者の「地方回帰」の流れの後押しも大切です。自治体が行う子育て支援、若者の雇用創出、定住促進策への国の財政支援の大幅拡充などを検討する時です。
農林水産業の活性化策、中小企業・小規模事業者の振興、観光産業や地域おこしの育成・強化、住宅や商店のリフォーム助成制度への支援など自治体が取り組む有効な地域活性化策を国が全力で支えることが重要です。