2022年4月14日(木)
主張
「敵基地攻撃」
9条が禁じる戦争そのものだ
岸田文雄政権が検討を進める「敵基地攻撃能力」の保有をめぐり、攻撃対象を相手国のミサイル発射基地だけに限らず、指揮統制機能も含めるべきだとする声が、自民党をはじめ元自衛隊幹部や元政府高官などから上がっています。これは、相手国の戦争遂行能力そのものを破壊しようとするものです。集団的自衛権の行使を認めた安保法制の下で、日本は武力攻撃を受けていなくても、米国と戦争している相手国に「敵基地攻撃」を仕掛けることも可能になります。戦争を禁じた憲法9条に真っ向から反するのは明らかです。
相手国の「中枢」攻撃も
自民党安全保障調査会は11日、外交・軍事政策の指針とされる政府の「国家安全保障戦略」など3文書の改定に向け、「専守防衛」の基本方針や「敵基地攻撃能力」の保有について議論しました。「敵基地攻撃能力」の保有については異論はなく、攻撃目標に指揮統制機能も含めるべきだとの声が大勢を占めたと報じられています。「専守防衛」に関しても名称や解釈を変更すべきだとの意見が出ました。
指揮統制機能も対象にすべきだという主張は、安倍晋三元首相が繰り返しています。3日の山口市での講演でも「敵基地攻撃能力」について「私は打撃力と言ってきたが、(目標を)基地に限定する必要はない。向こう(相手国)の中枢を攻撃することも含むべきだ」と語っています。
岸信夫防衛相は4日、共同通信のインタビューで、この安倍氏の発言について「中枢も含めた議論をすることは大切だ」と述べています(琉球新報5日付など)。12日の参院外交防衛委員会でも、日本共産党の井上哲士議員が「政府が言う『専守防衛』をも超える『中枢への攻撃』も検討対象とするのか」とただしたのに対し、岸氏は否定しませんでした。
岸田政権は、「国家安保戦略」などの改定に向け、非公開で有識者からの意見聴取を進めています。そこで意見を述べた北村滋・前国家安全保障局長は、『文芸春秋』5月号で、「『新たなミサイル阻止力』、すなわち、敵のミサイル発射能力や指揮中枢そのものを直接打撃し、減衰させる能力を保有することが必要になっている」と主張しています。
意見聴取に出席した折木良一・元統合幕僚長も、「日経」のインタビューで「敵基地攻撃能力については『反撃能力』という表現を提案する」「反撃能力とは相手の基地に限らず、指揮・統制施設や通信施設などへの攻撃も含む」と述べています(1月12日付)。「反撃能力」と言いますが、前出の北村氏は、「敵国にミサイル発射の確実な動きがある場合」もこれをたたくことは認められるとし、「撃たれる前に撃つ」ことも想定しています。
米国が始めた戦争を支援
しかも、今進められている「敵基地攻撃能力」保有の検討は、安保法制施行以前に議論されたものとは異なります。安保法制は、「存立危機事態」と認定すれば、日本への武力攻撃がなくても、他国と戦争を始めた米国を支援するため、集団的自衛権の行使として武力行使ができます。
相手国の戦争遂行能力を破壊できる攻撃力を持って、米軍の戦争に参加する―。こうした危険な企てはきっぱりやめるべきです。