2022年4月1日(金)
経済安全保障法案に対する井原東北大学名誉教授の陳述(要旨)
衆院内閣委 参考人質疑
衆院内閣委員会が31日に行った参考人質疑での井原聰・東北大名誉教授の経済安全保障法案に対する陳述の要旨は以下の通りです。
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法案の内容は政省令で示され、国会での議論が担保されていません。民主的側面からの工夫が必要です。
法案は、特定重要物資の安定供給などで「有事に備える」といいます。「有事」が何か語られず、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛整備計画との関係が不明なまま議論が進むことに非常に不安です。
米国防高等研究計画局(DARPA)に似せた組織設立の議論まで進んでいます。米国の「経済安全保障」の肝は防衛問題であり、防衛・軍事上の優位性、不可欠性をどう強化するつもりか、法案からは読み取れません。
法案は特定重要技術の研究開発のための大掛かりな「協議会」の設置を定めていますが、なぜ必要か不明です。防衛省が「伴走支援」すれば防衛・軍事研究推進になりかねません。
「協議会」メンバーには守秘義務と罰則を科しており、「協議会」からの離脱が自由か否かは大きな問題です。ユネスコの「科学および科学研究者に関する勧告」に照らせば、研究者は自由な離脱や意見表明の権利と責任を罰則のために放棄しなければならなくなります。
野依良治氏は「学術研究に従事する者が、自らの内在的動機に基づき行う研究は尊重されるべきであり、これにより全体として研究の多様性が確保されるのである」と提起しました。研究の多様性こそ基盤です。国立大学協会の調査では、40歳未満の若手研究者の約60%がパートタイマーであり、常勤の若手研究者の母数を増やすことが喫緊の課題です。
法案が位置付けるシンクタンクによる「調査研究」が、人工知能(AI)で監視するような調査ならば、研究者が国家によって監視されかねません。
特許制度は、科学や技術の発達だけでなく、学術研究体制や産業や文化の一部です。
法案は秘密特許制度を導入し、事前審査を行うとしています。事前審査を忌避できる環境がつくられるのか、「特定重要技術」が軍民両用の場合、その特許が保全指定され産業化できない不利益を十全に補償されるのか、支払う側の国が損失額の査定を行うことで公正が保たれるのか、大きな問題が含まれています。
公開を原則とする特許制度に軍事機密を持ち込むことは矛盾です。
大学発ベンチャー・ビジネスがたくさん生まれ始め、特に宇宙・海洋、量子、電磁気、サイバー、センサー分野の先端分野での活動が盛んです。秘密特許や特定重要技術としての囲い込みが、この分野の成長を鈍化させることも危惧(きぐ)します。
多くの問題を「特定重要技術」と秘密特許の問題に見ることができる。抜本的な見直しを求めます。