2022年3月25日(金)
主張
食料の「安全保障」
自給率引き上げを国政の柱に
日本は食料の6割以上を海外に依存しています。その危うさが地球規模の気候変動やコロナ感染拡大の中で浮き彫りになりました。さらにロシアのウクライナ侵略が世界の食料情勢に深刻な影響をおよぼしています。日本の食料の安定供給を揺るがす危機が現実化しかねません。食料自給率の向上は待ったなしの課題です。
ウクライナ侵略で拍車
多くの食料品で値上げラッシュが続いています。背景にあるのが輸入価格の高騰です。
国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界の食料価格指数(2014~16年平均100)は、20年6月以降上昇傾向で、22年2月は過去最高(140・7)を更新しました。豪雨や高温など異常気象の頻発による不作、コロナ禍での人や物流の混乱など複合的な要因が、世界の食料需給の逼迫(ひっぱく)をもたらしています。
ウクライナ危機が拍車をかけています。世界の小麦輸出の3割を占めるロシア産・ウクライナ産の供給停止の懸念が強まり、小麦の国際価格は08年の世界食料危機の水準を上回りました。両国に依存していた中東・北アフリカ諸国の代替え需要がアメリカなどに殺到し、食料争奪戦の様相になり、価格がさらに高騰するのは必至です。日本の小麦の主な輸入先はアメリカ、カナダ、オーストラリアなどですが、影響は免れません。
中国など新興国の需要の伸びも国際相場を押し上げています。中国の大豆輸入量はこの10年で約2倍に増え、1億トンに達しました。日本の300万トンと比べ桁違いの規模です。世界の市場で日本がお金を出しても買えない事態を生じかねません。
国内の食料生産に欠かせない肥料、飼料、燃料なども国際価格の高騰で安定した調達が困難になり、値上げが続いています。これらは農業経営を直撃し、生産をさらに衰退させかねません。原料や資材の多くが海外依存という日本農業の構造的なもろさの表れです。
国民の命を支える食料の安定供給は、国の独立にも関わる重要な課題です。岸田文雄首相は1月、国会の施政方針演説で「経済安全保障」を強調しましたが、「食料安全保障」の言葉はなく、食料自給率の向上には触れません。それどころか農業をつぶし、自給率を低下させた輸入自由化路線を前提に食料輸出拡大に力を入れる姿勢です。現在の食料をめぐる危機的事態への認識の欠如は重大です。
岸田政権は、米価大暴落を放置し、水田活用交付金の大幅カットや生乳生産の抑制などを進めています。長年の自民党農政がもたらした矛盾を農業者の犠牲と負担で乗り切ろうというものです。困難な中で頑張る農業者なども窮地に陥り、離農が続出し、日本農業が崩壊しかねません。世界で食料不足や飢餓が問題になるもとで、まさに「亡国の政治」です。
持続可能な農業の再建を
いま政治に求められているのは食をめぐる現実に正面から向き合い、自給率向上を国政の柱に据え、国土や資源をフル活用して農業を再生することです。効率優先でなく人や環境に優しい持続可能な農業の再建です。そのために、農業者や消費者、国民が力を合わせ農業つぶしに突き進む政治を根本から転換することです。7月の参院選はその重要な機会です。