2022年3月12日(土)
国連の国際世論結集に意義
参院予算委中央公聴会 松井芳郎氏の公述から
ロシアによるウクライナ侵略をめぐり松井芳郎名古屋大学名誉教授(国際法)が参院予算委員会の中央公聴会(8日)で公述しました(9日付既報)。国際法学会理事長も歴任した松井氏は各党の質問にも答えました。発言のポイントを改めて紹介します。
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「無力論」を批判
国連安保理がロシアのウクライナ侵略を強く非難する決議案をロシアの拒否権により否決(2月25日)した一方で、3月2日に招集された国連総会緊急特別会合ではほぼ同じ内容の決議を採択。松井氏は、この間「国連は無力だ」とする議論が出ていることに言及しました。
松井氏は「確かに、総会決議は法的な拘束力を持たないが、国際世論を結集するという意味では非常に重い道義的、政治的意義を有する」と指摘。対ロシア制裁など具体的な措置はとられていないが、これは国連憲章の欠陥や国連の落ち度ではなく、ロシアが「核兵器を使う」と脅しを掛けていることによる一定の“効果”のあらわれで、「むしろそちらが問題だ」と述べました。
そのうえで松井氏は、「国連が機能していないもとで(核には核で対抗する)核抑止が必要だ」という議論が登場していることに対し「核抑止というと現代的な概念のように思われるが、歴史的には、19世紀の国際社会を支配していた勢力均衡の考え方と基本的に同じだ」と指摘。「その勢力均衡がうまくいかなかったからこそ国際連盟で集団安全保障がつくられた。『核抑止論でいこう』という議論は、実は19世紀的な古い古い国際関係に戻るべきだという主張だ。これはとてもとることはできない」と主張しました。
松井氏は、「長期的には、国際法の執行の力とは、諸国民の連帯、国際世論だ」と強調。「ロシアが国際社会で圧倒的に孤立しているという事実は否定できない。これを生かしてどのような具体的方策をとるか知恵を出していく必要がある」と訴えました。今後の課題として、拒否権の問題や、総会の役割の強化などシステム改革の重要性を語りました。
同盟強化の問題
自民党議員から、岸田文雄首相が戦後の日本の平和が保たれたのは「自衛隊、日米同盟の二つの存在が大きかった」としていることへの“評価”を問われた松井氏。冷戦期は米ソが膨大な核兵器と軍事同盟の組み合わせでバランスを取り、それで平和が保たれているような印象もある一方で、「その抑止力が、基本的に言えば(敵をつくらないという)国連の集団安全保障の考え方とは矛盾している」「それに依拠することを強調することは、国連に頼らないという大きな問題点がある」と指摘しました。
また松井氏は、「抑止力ということで日本が同盟を強化し、あるいは自衛隊を強化することは、裏を返せば相手方もそれが脅威だと感じることがあり得るわけで、日本が中国を脅威だと感じるのと同じに、中国も日本が軍備を増強すれば日本を脅威だと感じる可能性は大変大きい。結局、軍備競争が拡大することになりかねない」とし、「外交交渉で軍縮なり両国間の了解をどのように取り付けるかという議論をするべきで、抑止力を掲げて軍備を強化し同盟を強めることはかえってマイナスだ」と述べました。
核兵器禁止条約
公明党議員から核兵器禁止条約について問われた松井氏は、「日本は、核抑止に依拠するという基本的な立場があって、日米同盟の立場からこの条約には入らないと言うが、国際社会の圧倒的多数の立場とは異なる。大変残念なことだ」と述べました。
国民民主、維新の議員からの「武器使用をもっと縛る方法はないか」「核兵器をめぐる日本の役割は」などの質問に対し松井氏は、「プーチンが核を振り回すのは核兵器を持っているからで、核兵器がなくなればああいうこともできなくなる」「核を持つ国が核を振り回すことができないような国際的状況をつくることが必要で、核兵器禁止条約について日米同盟のもとでも(日本が)できることはある」と述べました。
敵基地攻撃にも
松井氏は、冒頭の公述で「核抑止論」が19世紀の勢力均衡論と基本的に同じ考え方だと言及したなかで「敵基地攻撃」論も批判しました。「敵基地攻撃をやれば今回のロシアと同じ立場に立つ危険がある」と警告。敵基地攻撃は、相手の攻撃に対する自衛権の行使だと説明しようとすれば「そのことを事実において立証しなければならないが、ロシアが全くできていないように立証が非常に困難で、立証できなければ日本が侵略者になる」と述べました。
日本共産党の山添拓議員が「敵基地攻撃は、ミサイルを一発撃つという話ではなく、全面戦争をしかけるような話だ。相手をせん滅する打撃力という声まである。国際法上の(自衛権に求められる)必要性と均衡性を満たすことはないのでは」と質問。松井氏は「攻撃は発生していないがその恐れがある段階では、そもそも損害が発生していないので、必要性と均衡性をどう説明するかは至難のこと」だと指摘しました。
相手の「着手」の時期をどう決定するかという難問があり、相手より先に手を出すことを「自衛権」で説明することは至難だとして、「そういうことはやるべきではない」と答えました。