2022年3月9日(水)
男女賃金格差「見える」化へ
共産党質問「重い扉開けた」
主要国で最悪水準にある日本の男女賃金格差。その是正に向け、企業による格差の情報開示を法制度で義務付けると、岸田文雄首相が今通常国会の答弁で表明しました。引き出したのは、日本共産党の志位和夫委員長です。労働組合など長年の運動と日本共産党議員団の国会質問が事態を動かしています。(日隈広志)
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「一歩前進だ」。志位氏は1月20日の衆院本会議後の記者会見でこう述べ、男女賃金格差の実態公表を企業に義務付けるよう求めたことに対し、各企業の自社情報を載せた有価証券報告書の開示項目にすることを検討するとした首相答弁を評価しました。また首相は、女性活躍推進法での企業の必須開示項目に男女賃金格差を追加するよう検討するとも表明しました。
情報開示は入り口
日本共産党は国会審議で、有価証券報告書と女性活躍推進法での男女賃金格差の情報開示を繰り返し要求。昨年の総選挙ではジェンダー平等政策の冒頭に掲げて訴えました。
それぞれを所管する政府担当者は本紙の取材に対し、政府方針の変化について「投資家の間でも『多様性尊重』に意識が変わっている。そこに総理が発言した」(金融庁)、「官邸の意向がある。EU(欧州連合)での格差是正の動きなど現状認識が変わったようだ」(厚生労働省)と回答。首相答弁は「世論の変化」を受けた政治判断だったことが分かりました。
浅倉むつ子早稲田大学名誉教授(労働法)は、賃金格差の「見える」化である情報開示は是正の“入り口”だとして、首相答弁を引き出した志位氏の質問は「長年閉ざされてきた重い扉を開けた」と語ります。「日本共産党の繰り返しの国会質問や総選挙での重点化などが世論に響いてきた。首相判断につながった」と指摘します。
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情報隠し目届かず
歴代の自民党政権には開示義務付けを拒んできた重い責任があります。
有価証券報告書には1999年まで、男女別の従業員数、勤続年数、平均年齢、平均給与月額の記載が義務付けられ、格差是正にとって重要な情報でした。しかし同年、財務省は「企業負担になる」などとして省令で男女別の記載を削除。女性活躍推進法の開示でも義務とせず、共産党の山添拓参院議員の質問で明らかになった開示企業は全体約2万7000社のうちわずか7社です。現在の格差は正社員同士の比較でも女性は男性の約7割。他産業より月約10万円低いケア労働や非正規雇用を圧倒的に占めるのは女性であり、男女全体での生涯年収差は約1億円に上ります。「情報が隠されることで、労組や行政の監視の目が届かず、深刻な格差が是正されずにきた」(浅倉氏)のです。
コースで4万円差
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さらに、「総合職」・「一般職」などの「コース別雇用管理」が賃金格差の温床になっています。コース別雇用管理は男女雇用機会均等法(86年施行)による男女別の募集、採用の禁止のもとで企業がつくった制度で、実態は将来の幹部・管理職要員の「総合職」を男性が占め、「一般職」の多くが女性です。
厚労省は男女賃金格差の要因が勤続年数と職階の違いにあり、「コース別雇用管理自体は問題ではない」との説明を繰り返しています。
しかし共産党の田村智子参院議員は2月25日の参院予算委員会で、勤続年数と職階が等しく、同じ職務内容の新入社員同士でも「総合職」と「一般職」で月額約4万円の格差があると告発。「将来を理由に賃金格差を容認していては是正などできない」との田村氏の追及に、後藤茂之厚労相は「事実上の男女別雇用管理にならないよう指導する」と答弁せざるを得ませんでした。
浅倉氏は、コース別雇用管理が「ILO(国際労働機関)や女性差別撤廃委員会が勧告する『間接差別』の恐れが十分にある」と指摘します。
日本企業は長年、「男は仕事」「女は家庭でケア」という性別役割分業を利用し、勤務地や職務、労働時間に“縛られない”「正社員モデル」をもって男性中心の雇用・賃金体系をつくってきました。
浅倉氏は「家庭責任を負ってきた女性は『正社員モデル』から必然的に外れる」として、妊娠、出産による女性労働者の離職の割合が46・9%に上り、正社員で復職しても短時間労働などで役職に就けず、あるいは非正規を選択せざるを得ない現状を指摘。「そうした労働市場から女性を排除してきた構造の転換なしに格差是正はない」として、男女賃金格差是正の進捗(しんちょく)は「ジェンダー平等の表象」だと語ります。
「同一価値」の原則
労働基準法は男女賃金差別を禁止(第4条)しており、企業の深刻な女性差別賃金の実態を告発・是正する裁判闘争の根拠規定になってきました。
これに加えて、日本では、ILOの「同一価値労働同一賃金の原則」(第100号条約、日本は67年批准)を確実に実施させることが不可欠の課題です。
同条約のガイドブックは冒頭で、「男女が同じ又は類似の仕事をする場合」だけでなく、「全く異なる仕事をしていても、客観的な基準に照らして同一価値の仕事である場合には、同一賃金を受け取るべき」だとして、「同一賃金は、全ての男女が付与されている人権として認められている」と宣言。「客観的な基準」は(1)知識・技能(2)責任(3)負担(4)労働環境―からなります。
同原則の実施に向け、浅倉氏が注目する法制度はカナダ・オンタリオ州で始まった「ペイ・エクイティ(賃金衡平)法」(87年)です。2018年には連邦法にもなった同法は、一定規模以上の公私両部門の使用者に対して男女の賃金格差を是正する実行プランを作成させ、不適切な賃金格差を調整することを義務付けています。浅倉氏は「重要なのは、差別を受けた個人からの救済申し立てを待つことなく、賃金格差是正の実施を積極的に使用者側に義務付けたこと」だと指摘。同法の趣旨はEUの「賃金格差透明化指令案」(21年3月)、ドイツの「賃金透明化法」(17年6月)などに広がっています。
日本で職務給を採用していないから客観的基準はつくれないという経営団体などの言い訳は成り立ちません。浅倉氏は強調します。「有価証券報告書と女性活躍推進法での情報開示義務付けは第1段階。次の段階では、行政監視部門の強化などを行い、日本版ペイ・エクイティ法の制定に進むべきです」
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