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2022年3月6日(日)

ロシアのウクライナ侵略 五つの角度からみる

 ロシアによるウクライナ侵略は国連憲章に反する戦後国際社会の平和秩序を破壊する行為です。ロシアを含め世界中から糾弾する声が上がっています。世界の世論の広がりが決定的に重要です。一方で、自民党や日本維新の会の政治家は、ウクライナ侵略を利用して、日本国憲法9条を攻撃し、「核軍拡」論を主張しています。ウクライナ侵略をめぐる論点について考えます。

「核」による脅迫

「核兵器のない世界」が急務に

 プーチン大統領はウクライナ侵略で他国に手出しをさせないために、核兵器部隊に「特別警戒」命令を出し、全世界を核で脅しています。ロシアは米国と並ぶ世界最大の核保有国です。全米科学者連盟の核専門家であるハンス・クリステンセン氏によれば、ロシアは現時点で4477発の核弾頭を保有。うち1588発が実戦配備されており、最新鋭化も進んでいます。ロシアは、ウクライナ攻撃でも露呈した通常戦力の劣勢を補うために核・ミサイル増強に力を入れているとみられます。

 重大なのは、プーチン大統領が“攻撃されたら核兵器でこたえる”と公言していることです。ここで言う「攻撃」は核・非核の区別をしておらず、通常兵器による攻撃に対しても核攻撃=「核の先制使用」も辞さないということを意味しています。

 いま、人類は1962年のキューバ危機以来の、核大国による核攻撃の危機にさらされています。核兵器は人類と共存しえない「絶対悪」であり、「核兵器のない世界」を目指すことが、いよいよ急務になっています。とりわけ広島・長崎の惨禍を経験した日本は、卑劣な核の脅しを許さないと声を突きつけていく責務があります。

 ところが、日本国内ではロシアによる核の脅しを口実に、「核抑止」強化を求める声が一部で出ています。

 先導しているのは安倍晋三元首相と日本維新の会です。安倍氏は2月27日のテレビ番組で、米軍の核兵器を日本に配備し、日米が共同で管理・運用する「核共有」(ニュークリア・シェアリング)について、「議論をタブー視してはならない」と表明。これに呼応した維新の松井一郎代表は「非核三原則は昭和の価値観」(28日の記者会見)とまで言い放ちました。維新は3日、政府に「核共有」の議論を求める提言を政府に提出しました。

 こうした動きに、被爆者団体がいっせいに反発。日本被団協は2日の声明で、「日本国民を核戦争に導く」と批判しました。日本共産党は、「核共有」を含む核武装の動きを厳しく批判し、撤回を求めました。井上哲士議員は2日の参院予算委員会で、「非核三原則は時の政権の政策にとどまらず、本会議決議をへて国是とされている。議論の検討自体が許されないものだ」と主張しました。これに対して、岸田文雄首相も「(核共有は)認められない」と答弁しました。

 志位和夫委員長は3日の記者会見で、維新の提言は「核による脅威に核で対抗しようというもので、プーチン政権と同じ立場に身を置くことになる」と批判。提言の撤回を求めるとともに、核による脅威を取り除く唯一の方法は核兵器廃絶であり、日本政府に核兵器禁止条約への参加を強く求めました。

侵略止めるには

世界が反戦訴え包囲してこそ

写真

(写真)ロシアのウクライナへの侵略に抗議する人たち=2月26日、東京・渋谷駅前

 ロシアのウクライナ侵略を止めさせるために、国際社会は何ができるのでしょうか。

 何より大事なのは、「ロシアのウクライナ侵略やめよ」の一点で団結し、世論でロシアを包囲・孤立させるとともに、ウクライナへの連帯を示すことです。既に、日本国内を含む世界中で無数のデモやスタンディングが取り組まれ、SNSにも「NO WAR(戦争反対)」の声があふれています。

 こうした世論が、主権を守るためにたたかっているウクライナ国民や、弾圧に屈せず反戦の声をあげているロシア市民を勇気づけ、プーチン政権を追い詰める力になります。

 さらに、世論は国際政治を現実に動かしています。国連総会は40年ぶりに緊急特別会合を開催。2日にはロシア非難決議が加盟国の7割超にあたる141カ国の賛成で採択されました。

 植民地支配の崩壊と100を超える主権国家の誕生という世界の構造変化が、平和を促進する生きた力を発揮し核兵器禁止条約を生み出しました。この力がロシアの侵略に立ちはだかり、ウクライナのたたかいと連帯し、プーチン政権を包囲しています。

 経済制裁でも、世界的な決済システム「SWIFT」(国際銀行間通信協会)からのロシアの排除という、かつてない制裁や、エネルギー分野での制裁の動きも強まっています。この動きには日本政府も、加わっています。

 また、ウクライナ国内では多くの民間人が侵略の犠牲になると同時に、100万人を超える難民が発生。深刻な人道危機が広がっています。官民による長期的な支援が必要となります。

 一部には、中国による台湾侵攻の誘発など「力による現状変更」が東アジアにも波及するという懸念が広がり、軍拡・軍事同盟強化の口実とされていますが、国際世論の力でロシアを追い詰め、孤立させることができれば、今後、世界でいかなる国も「力による現状変更」をさせない決定的な力になります。

侵略合理化論

どんな「理屈」も成り立たない

 ロシアによるウクライナに対する侵略は国連憲章に基づく世界の平和秩序を根底から脅かしています。プーチン大統領は、侵略戦争を合理化するためにさまざまな弁明をしていますが、どれも成り立つものではありません。どんな理由をもってしても、紛争の平和解決、武力行使の禁止を定める国連憲章に違反した戦争行為は許されない。これが世界のルールです。

 プーチン大統領は、軍事作戦の開始を表明したテレビ演説(2月24日)で、「北大西洋条約機構(NATO)のインフラをさらに拡大し、ウクライナの領土を軍事的に発展させることは受け入れがたい」と発言。今回の軍事行動は「NATOの脅威への対抗」だと強調しました。

 軍事同盟の拡大は重大ですが、それだけで「武力行使」が発生したとはいえず、ロシアの武力行使、侵略を正当化する理由にはなりません。

 また、プーチン大統領は、ロシアが独立承認したウクライナ東部地域の「要請」を受け、国連憲章51条の「集団的自衛権」を根拠に侵略を合理化しています。

 しかし、ウクライナ政府は東部の独立など認めていません。他国の地域を一方的に「独立」と認めること自体が、「主権尊重」「領土保全」を尊重する国連憲章に反します。その地域の「要請」として「集団的自衛権」を行うなど、二重の国連憲章違反であり、絶対に通用するものではありません。

 プーチン大統領は、昨年7月、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題する論文を発表し、両民族は「一体不可分」と主張しました。「民族」という言葉を持ち出し“ロシア民族を守る”ことを侵略の大義名分にしています。

 これに対して国連安保理会合(2月21日)で痛烈な批判を行ったのが、ケニアの国連大使です。同大使は、「私たち(ケニアとアフリカ諸国)の国境は私たちが自分で引いたものではない」と発言。植民地時代に宗主国によって、民族に何ら関係なしに引かれたものだと強調しました。その上で、「しかし、われわれは受け継いだ線で国境を定めることに合意した」「民族と人民の誰も見たことのない偉大な未来を選択した」と訴えました。この「領土拡張主義」を拒否する表明に、強い共感が広がっています。「民族の一体性」を理由に侵略を合理化することも絶対に許されません。

国連・9条攻撃

「力の論理」否定が戦後の原点

 自民党や維新の会の一部の政治家や「日本会議」勢力は、ウクライナ侵略を利用して、「国連は無力だ」「憲法9条は役にたたない」などと言い募っています。安倍晋三元首相は、ロシアの侵略を「プーチンとしては領土的野心ではなく」起こしたとプーチン大統領を擁護しました。国連無力論や憲法9条への攻撃は「力の論理」の信奉に行きつきます。

 国際連合の設立(1945年)の根拠となっているのが国連憲章です。2度にわたる世界大戦の教訓を踏まえ、戦争を違法化し、国家間の戦争を未然に防ぐ世界秩序のあり方を決めたのが国連憲章です。国連憲章の2条4に、安全保障の基本原則として「武力による威嚇又は武力の行使」を禁止しています。武力行使禁止原則は国連憲章のなかでも最も重要な原則です。

 20世紀初頭までは戦争は一般に国家の合法的な権利として認められていました。第1次大戦(14~18年)後に、国際連盟規約や不戦条約(1928年)が戦争を一般的に禁止しましたが第2次大戦の惨害を防げませんでした。戦争が「自衛」の名目で行われることから、「武力による威嚇」と「武力の行使」を禁止したのが国連憲章です。力の強いものが勝つという「力の論理」を否定して、紛争を平和的に解決することを全世界に義務づけたのが国連憲章です。

 日本国憲法9条は、第1項で「戦争」だけではなく「武力の行使」と「武力による威嚇」まで「永久に放棄する」としています。2項では「陸海空軍その他の戦力」の不保持を決め、さらに、国の交戦権の否認を決めています。

 日本国憲法は、朝鮮半島や中国をはじめアジア諸国への侵略への反省を原点の一つにしています。再び侵略国家にならないという決意が込められています。同時に、2項の規定は、国連憲章の原則をさらに進めて、世界平和の先駆けになろうという決意を込めたものです。「力の論理」の否定をさらに徹底したのが憲法9条です。

 人類が経験した大戦の反省から「武力の行使」などを否定してきた国連や憲法9条を攻撃することは、「力の論理」をひたすら信奉して戦後の国際秩序の根本、戦後の日本の原点を否定することに行きつきます。

 現に、岸田政権や維新は、「力の論理」を推し進め「敵基地攻撃能力」の保有の検討を表明し、9条改憲を急いでいます。

 岸信夫防衛相は国会で敵基地攻撃の具体化として他国の領空で空爆することも「排除しない」と述べました。他国の領空に入って空爆するのは戦争です。撃たれる前に撃つという敵基地攻撃は、国連憲章に反する先制攻撃との区別はつきません。「力の論理」を信奉し、軍事対軍事の対立をエスカレートしていけば再び侵略国家になる危険があります。

日本共産党

どんな国の覇権主義も許さず

 日本共産党は、「どんな国であれ覇権主義的な干渉、戦争、抑圧、支配を許さず、平和の国際秩序を築」く(綱領)ことを掲げている政党です。

 旧ソ連の覇権主義に対しては、チェコスロバキア侵略(1968年)、アフガニスタン侵略(79年)などの蛮行を厳しく批判してきました。60年代前半から始まる日本共産党への悪辣(あくらつ)な干渉攻撃に対しても、正面からたたかい、誤りを認めさせるなど攻撃を打ち破ってきました。

 日ロ領土問題をめぐっては、「日本の歴史的領土である千島列島と歯舞群島・色丹島の返還をめざす」(綱領)との立場で、1875年の千島・樺太交換条約で千島列島全体が日本の領土だと画定していることを基礎に、国際的な道理に立った交渉こそが必要だと主張しています。

 米国のベトナム戦争(1955年)、イラク戦争(2003年)などの無法な侵略戦争に一貫して反対。米国が地球的規模で軍事基地をはりめぐらし、世界のどこにたいしても介入、攻撃する態勢を取り続けていることを厳しく断じています。

 中国に対しても、東シナ海・南シナ海での覇権主義的なふるまいは、国際法を踏みにじるものだときっぱり批判。平和を守り、平和をつくるたたかいの先頭に立っています。

原発攻撃

人類の生存脅かす犯罪

 ウクライナへの侵略をすすめているロシアは4日、ウクライナ南部にあるヨーロッパ最大級の原発の関連施設への砲撃を行い施設の一部を破壊しました。

 万が一にも稼働中の原子炉が破壊され、放射性物質が外に漏れだせば風向きなどによってはヨーロッパ全土、日本を含むアジアなど世界規模の大惨事になる可能性があります。同原発から放出される放射能量は広島に投下された原爆の50~60個分とも言われています。

 原子炉の破壊がなくても、攻撃によって電源喪失などの冷却機能が失われれば、福島第1原発事故のようなメルトダウン(炉心溶融)を引き起こす危険もあります。また、攻撃された原発の敷地内には使用済みの核燃料が屋外に保管されていて、その安全上の懸念も指摘されています。

 人類全体の生存を脅かす犯罪行為となりかねない原発攻撃は断じて許されません。


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