2022年3月5日(土)
主張
「核共有」議論
日本が核攻撃に加わる暴論だ
ウクライナを侵略しているロシアが核兵器による威嚇を行っていることを口実に、日本でも米国との「核共有(ニュークリア・シェアリング)」の議論をすべきだという主張や提言が、安倍晋三元首相ら自民党の政治家や日本維新の会から出ています。これは、歴代政権が国是としてきた「非核三原則」(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)をじゅうりんし、核兵器禁止条約に象徴される「核のない世界」を目指す国際的な流れに逆行するものです。
周辺国の核軍拡に拍車
「核共有」とは、北大西洋条約機構(NATO)が取っている体制です。NATOの説明資料によると、米国はヨーロッパの特定の場所にB61という核爆弾を配備しています。仮に紛争が起き、NATOが核任務を実行する場合、B61が配備されている国が保有している核攻撃能力を持った戦闘機に同爆弾を搭載し、使用することになります。戦時の核任務は、NATO加盟国でつくる「核計画グループ」の同意と米大統領の許可が必要とされています。
米科学者連盟の核問題専門家ハンス・クリステンセン氏などによると、米国のB61核爆弾はイタリア、ドイツ、トルコ、ベルギー、オランダの5カ国(6基地)に計150発が配備されています。
B61は平時には米軍の管理下に置かれ、戦時での使用も米大統領が最終の決定権を持ちます。米大統領による決定が下されて、これらの国の核攻撃能力を持つF16戦闘機やトーネード戦闘機にB61が搭載されることになります。現在、各国で導入が進んでいる米国製のF35Aステルス戦闘機も改良すれば核爆弾の搭載が可能です。
安倍元首相は、NATOの例を挙げて、「核共有」の議論をすべきだと主張しています。しかし、仮に日本が、NATOのような米国との「核共有」の体制を取ればどうなるのか。
在日米軍基地あるいは自衛隊基地に米軍の核爆弾を貯蔵・管理する施設が造られ、自衛隊は核攻撃能力のある戦闘機を保有することになります。自衛隊には核爆弾を運用する部隊が創設され、核を使用するための訓練や演習も実施することになります。「非核三原則」が禁じた「核持ち込み」という次元を超え、自衛隊が核攻撃に参加するという問題になります。
これが、周辺国の核軍拡に一層の拍車をかけることは明白です。専門家からは、中国や北朝鮮だけでなく、韓国が核兵器の保有に踏む出す危険も生みかねないとの指摘も上がっています。万一、周辺国との紛争になれば、核爆弾を貯蔵したり、これを搭載する戦闘機を配備したりしている日本の基地が相手国からの核攻撃の標的になるのも間違いありません。
「国民を核戦争に導く」
日本維新の会は3日、林芳正外相に「核共有による防衛力強化等に関する議論を開始する」ことを提言しました。これに対し広島・長崎の被爆者でつくる日本被団協が「日本国民を核戦争に導き、命を奪い国土を廃墟(はいきょ)と化す危険な『提言』」だと撤回を求めたのは当然です。
米国との「核共有」という議論は、核使用も辞さない姿勢を示すプーチン・ロシア大統領と同じ立場に身を落とすもので、有害でしかありません。