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2022年1月12日(水)

主張

「こども家庭庁」

問われるべきは政治の姿勢だ

 岸田文雄政権は通常国会に「こども家庭庁」を創設する法案を提出します。昨年末、法案の骨格となる基本方針を閣議決定しました。子どもの視点に立った政策づくりなどを強調する一方、子ども政策の立ち遅れの要因を行政の「縦割りの壁」に求めました。しかし、子どもや子育てに困難をもたらしているのは、行政組織のあり方だけではありません。歴代自民党政権が、安心して子育てできる社会の実現を求める国民の声に背いてきたことが最大の原因です。行政組織の改変に終わらせず、政治の姿勢をただすことが、事態を打開する力となります。

懸念される議論の矮小化

 基本方針は、2023年度の「こども家庭庁」新設を掲げます。内閣府の外局として設置し、厚生労働省の児童虐待防止や保育所などの担当、内閣府の少子化対策などの部署を移管するとしています。義務教育や幼児教育は現在のまま文部科学省が所管します。

 子どもの権利を保障し、誰一人取り残さず、健やかな成長を社会全体で後押しする「こどもまんなか社会」を目指す「司令塔」というのが、新組織の位置づけです。

 問題は、児童虐待や貧困、いじめなど困難な課題に公的な支援が届いていない主要な理由を「『縦割り』によって生じる弊害」として記していることです。省庁連携の欠如などで放置されたり解決が遅れたりすることは許されません。しかし、そこにばかり目を向けるのは議論の矮小(わいしょう)化です。

 教育や保育の拡充、子どもの貧困の解決を求める切実な要求に応えてこなかった長年の自民党政治のあり方こそが問われなければなりません。保育所の待機児童問題を深刻化させたのは、歴代政府が保育所の大増設を拒んできたためです。教育費の大幅軽減に後ろ向きの立場も改まりません。安心の子育てには、雇用のルールづくりが不可欠なのに、長時間労働や非正規雇用を拡大させてきたのは、大企業の利益を最優先にした政治のゆがみです。ここにメスを入れて、政治のあり方を根本から見直し、抜本改革する議論をすることこそが、子どもを中心においた社会づくりの大前提です。

 当初「こども庁」だった名称に「家庭」が書き加えられたことに不安と懸念が広がっています。子育ては家庭が担うべきだ、という自民党内の根強い意見を踏まえたものと指摘されています。子育て世帯への給付を増やすことや、子育てに悩む親を社会全体で支えることは必要ですが、「家庭」を過度に強調することは危険です。父母に子育ての自己責任を迫ることにもつながります。親から虐待された経験のある人は「家庭に苦しめられる子どもがいることを考えてほしい」と訴えます。自民党が固執する「古い家族観」からの脱却が不可欠です。

憲法と権利条約の立場で

 基本方針は「全ての国民に基本的人権を保障する日本国憲法の下、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)に則(のっと)り」「全てのこどもが生命・生存・発達を保障されること」などを明記しました。この立場から従来の政策を徹底的に検証し、是正することが必要です。

 欧州諸国と比べて見劣りする子育て支援の公的支出の国内総生産(GDP)比を大きく引き上げることなどが急がれます。


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