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2021年12月4日(土)

主張

伊方原発の再稼働

危険と不信が置き去りのまま

 四国電力の伊方原発3号機(愛媛県伊方町)が再稼働しました。2019年12月末に定期検査で停止してから約1年11カ月ぶりの稼働です。同原発は地震や火山噴火のリスクがあるほか、住民避難の実効性への疑問が消えません。職員の保安規定違反なども判明し、四電の体質を問う声も上がっています。不安と不信を置き去りにしたまま、運転再開に突き進んだことは重大です。再稼働を中止し、廃炉にすることが求められます。

地震・火山リスク直視を

 伊方3号機は当初、20年春に再稼働予定でした。しかし、同年1月、広島高裁が運転差し止めの仮処分決定を出し、それが21年3月に同高裁で取り消されるまで法的に運転できませんでした。その後もテロ対策施設の完成遅れや、安全管理上のトラブルが明らかになり、停止期間は長引きました。

 運転を差し止めた高裁決定は、活断層が近くにある可能性は否定できないとし、四電の調査は不十分としました。また約130キロ離れた阿蘇山(熊本県)の大規模噴火による大量降灰の影響なども考慮することを求め、それらを過小評価して再稼働を認めた原子力規制委員会の判断は「過誤」「不合理」と断じました。地震と火山の危険を直視した重要な指摘です。

 四電の異議申し立てにより、差し止め決定は取り消されましたが、同原発が地震や火山災害のリスクを抱えている事実は動かせません。すぐ近くには国内最大規模の断層帯「中央構造線」が存在しています。南海トラフ巨大地震にも強い警鐘が鳴らされています。地震・火山への備えがいよいよ急務となっている時に、再稼働に踏み切ることは、あまりに無謀です。

 住民の避難体制への懸念も払しょくされません。伊方原発は、「日本一細長い」とされる佐田岬半島の付け根にあります。同半島の住民が避難の際に使用できる道路は限られ、津波や地震で道路が寸断されれば、海路での避難を強いられます。豊後水道を船で渡り大分県に避難する計画になっていますが、港湾が破損していたり、荒天だったりした場合に運航できる保証はありません。

 21年3月、日本原子力発電の東海第2原発(茨城県東海村)の訴訟で水戸地裁は「実現可能な避難計画が整えられていると言うにはほど遠い」として運転差し止めを命じました。この指摘は、避難の実効性に疑念がある伊方原発にも当てはまります。同原発の半径30キロ圏内の約11・3万人(愛媛・山口両県の8市町)を危険にさらす再稼働は許されません。

 伊方原発では20年1月に核燃料取り出し作業中に制御棒を誤って引き抜くなどトラブルが相次ぎました。重大事故発生時の要員として宿直中の社員が過去に無断外出を繰り返した規定違反が、21年7月に発覚しました。四電のずさんな安全管理と隠ぺい姿勢に対して「原発を運転する資格があるのか」と批判が集まっています。

「安全神話」許されない

 全国で稼働中の原発は伊方3号機を含め5原発8基となりました。岸田文雄政権は稼働原発をさらに増やす方針です。いまも被害が続く10年前の東京電力福島第1原発事故に反省もなく再稼働を推し進めることは「安全神話」の復活そのものです。原発依存のエネルギー政策の転換が急務です。


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