2021年11月6日(土)
主張
コロナでの自殺増
女性に犠牲強いる社会正そう
2020年の女性の自殺者数が大幅に増えたことが政府の自殺対策白書(2日発表)で分かりました。とくに働く女性で増加が顕著でした。厚生労働省は、新型コロナ感染拡大による失職や収入減が背景にあると指摘します。コロナ禍では、非正規雇用で雇い止めやシフト減が相次ぎました。非正規雇用の7割は女性が占めています。女性の多くが雇用の調整弁とされ、その中で追い詰められて命を絶つ事態まで引き起こす社会のゆがみをこれ以上放置できません。女性に多大な犠牲を強いる日本の構造的問題を正すため、政治は役割を果たすべきです。
リスクを高めないために
20年の全国の自殺者数は2万1081人で前年比912人増でした。11年ぶりの増加です。男性は23人減少し1万4055人だったのに対し、女性は935人増の7026人となりました。白書が女性の自殺動向を分析したところ、過去5年(15~19年)の平均値と比べ「被雇用者・勤め人」が381人増えました。増加が多かった職種は「事務員」「その他のサービス職」「販売店員」などでした。
20年4月、緊急事態宣言などにより雇用者数が激減しましたが、とりわけ女性は男性の2倍以上にあたる74万人も減りました。非正規雇用が多い宿泊業・飲食業などが大打撃を受けました。自公政権の失政が事態を悪化させました。
内閣府に設置された「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」は4月、報告書をまとめました。そこではコロナ拡大は男女間で異なる影響を及ぼし「女性不況」の様相も確認されたとし、女性に対しては就業から生活までさまざまな面で深刻であることを強調しています。
もともと日本の女性が抱えるDV被害や育児の悩み、介護疲れなどの矛盾がコロナ禍であらわになったと指摘されています。在宅勤務や外出自粛により、家事負担が急増し、気の休まる時間や居場所がなくなった問題を自殺の背景に挙げる専門家もいます。女性に負荷が大きい社会そのものが問われます。ジェンダー平等社会の実現はコロナ禍で極めて切実です。
内閣府の研究会報告書は、「人と接する機会が少なくなり、経済的にも不安定な生活を強いられる女性が増えている中で、今後女性の自殺リスクが更に高まっていくことも懸念される」と記しました。コロナでつながりが断たれ、生きづらさを抱える人への救いの手が届きにくくなっている実情もありました。心身ともに疲弊した女性の命を守るための相談体制の拡充・強化が急がれます。自殺の多くは「追い込まれた末の死」であり「個人の問題」ではありません。「困った時は相談していい」「政治の責任で人々の命と暮らしを守ります」というメッセージを政府が強く発信することが重要です。
自己責任の政治でなく
経済的困窮に陥った人が利用できるセーフティーネットが貧弱なのも重大です。コロナ禍で苦しむ女性を追い詰める要因の一つに、“貧困は自分のせいだ”と「自己責任」を迫る風潮があることは見過ごせません。自民党政治家による生活保護利用者へのバッシングなど弱い立場の人を攻撃する政治の横行を許してはなりません。対立と分断の社会から、連帯と共同の社会への転換が求められます。