2021年6月9日(水)
主張
過去最少の出生数
若い世代が希望持てる対策を
2020年の日本の出生数は84万832人となり、過去最少を更新しました。5年連続の減少です。厚生労働省が4日発表しました。もともと出産・子育てを支える仕組みが立ち遅れているところにコロナの影響が追い打ちをかけ、日本の少子化を加速させています。若い世代が不安を抱え子育てに希望を持てない社会をそのままにはできません。コロナによる困難を打開する緊急対策とともに、安心して子育てできる環境整備をはじめ抜本対策が必要です。
社会のゆがみが深刻化
日本の出生数は、19年に初めて90万人を下回り86万5239人となりました。20年はさらに2万4407人減少です。84万人台になるのは23年としていた政府推計よりも早い減少スピードです。
女性1人が生涯に産む子どもの人数の推計である「合計特殊出生率」も20年は1・34で19年から0・02ポイント下がりました。安倍晋三前政権が打ち出し、菅義偉政権も引き継ぐ「25年までに希望出生率1・8実現」とは逆の事態です。
子どもを持つか持たないか、いつ出産するのか、何人産むのかは、それぞれの女性やカップルが自由に選択して決めることです。問題は、子どもを持ちたいと願っても、経済状況や出産・子育てを支える仕組みの弱さなどで、希望が阻まれている現実があることです。
歴代自民党政権は「少子化対策」を掲げるものの、本格的な打開策をとりませんでした。認可保育所の大増設に背を向け、待機児問題を深刻化させたのは、その典型です。若い世代に長時間労働・サービス残業など過酷な労働を強いることで子育てに困難をもたらしています。正社員を非正規雇用に置き換え、若い世代の雇用を不安定にし低賃金に抑え込んだことは、子育ての基盤を掘り崩しています。
20年以降の出産数減少の要因は、コロナに直撃された経済状況の悪化といわれています。約90万人のパート・アルバイト女性が勤務シフトを減らされ、休業手当も払われない「実質失業者」(野村総研の推計)になったように、女性は大打撃を受けています。ニッセイ基礎研究所がコロナ禍で「将来的に持ちたい子の数が減った」という人に理由を聞いた調査では「経済的な不安」が最多でした。
コロナ以前から出産・育児をためらわせる要因として深刻だった経済的負担の重さを解決することは切実な課題です。若い世代の賃上げなど安定的に収入を確保できる雇用の改革や育児休業制度の拡充、教育費の軽減、家賃支援などの経済的な支援を強力にすすめることが急務です。貧困と格差をなくす政策は、安心の子育て社会の重要な土台となります。
コロナ禍では、一斉休校や在宅勤務などで育児・家事の負担が女性にのしかかり、子育てが重荷になった実態も浮き彫りになりました。ジェンダー平等社会を実現することはいよいよ不可欠です。
安心できる仕組みつくれ
菅政権は2月末、コロナを踏まえた少子化対策をまとめましたが、家賃や出産などの支援も不十分な対策にとどまっています。若い世代が安心できる思い切った対策に踏み切るべきです。大企業・大資産家に応分の負担を求め、欧州諸国と比べて格段に少ない子ども・子育て予算の抜本的な拡充をはかることが急がれます。