2021年6月4日(金)
社会は変わるし、変えられる――志位さんと語る学生オンラインゼミ(4)
「自己責任」論を乗り越えて
政治を話しづらい
どうすればそういう空気を変えることができるか
京都府の学生班 僕たちは、去年から食料支援をやってきたんですけれど、食料支援の時は社会への関心や疑問、政治を変えたいという学生がたくさんいると思いましたが、普段、自分の周りでは、政治や社会のことを話しづらい空気も感じます。どうすればそういう空気を変えることができると思いますか。
志位 とっても大事な質問ですね。どうすればそういう空気を変えられるのか。私としては二つのメッセージを送りたいと思うんです。
「あなたのせいじゃない」――「自己責任」論を乗り越え、社会的連帯をひろげよう
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志位 一つは、「あなたのせいじゃない」ということを言っていこうということなんです。つまり、「自己責任」論を乗り越えて、社会的連帯を広げていこうということを訴えたいと思います。
菅首相のセリフで、「まずは自分でやってみる」、「自助が大事だ」というのがあるでしょう。そんなことを言うんだったら答弁も「自助」でやってくださいなと言いたくなりますけれど(笑い)。ただ、そういう議論が繰り返されるもとで、少なくない学生のみなさんが、「自己責任」論のいろいろな呪縛にしばられているという状況もあるのではないかと思うんです。たとえば、「正社員になれずに非正規雇用なのも自分の努力が足らないからだ」とか、「奨学金は借りたら返すのが当たり前」とか、そういういろいろな「自己責任」論にしばられている状況もあるんだと思うんです。
ただ、ここで大事なのは、コロナ危機に直面して、「自己責任」論はもう通用しなくなるという状況が生まれていると思うんですよ。民青のみなさんがとりくんでいる食料支援は、まさにそういう状況のもとでのとりくみだと思います。アルバイトの休業で収入がなくなって、途端に生活が成り立たなくなる。これは学生のみなさんの責任でしょうか。誰がどう考えても、そうじゃない。学生を「使い捨て」の労働でこき使う。学費が高すぎる。奨学金が貧しすぎる。そこから来ているわけです。これが、まさに政治の責任だということが見えやすくなっていると思います。食料支援の時には、政治や社会の話題がはずんだというのも、そういうことではないかと思うんです。
ですから、私は、ぜひ、「あなたのせいじゃない」ということを言っていってほしい。「自己責任」論を乗り越えて、社会的連帯で社会を変えていこう、そういう動きや対話をいろいろな分野ですすめてほしいということが一つなんです。
「社会は変わる、変えられる」――この希望を伝えていこう
志位 もう一つ、言いたいのは、今日のゼミナールの主題ですけれど、「社会は変わる、変えられる」、この希望を伝えていくことが大事だと思います。「社会はそうはいっても変わらないのではないか」というところから、政治や社会について話しづらい空気も生まれてきていると思うんです。
しかし、私は、社会というのは変わる、変わるときには一気に変わるということを言いたいと思います。
最近そのことを実感したのは、ジェンダー平等を求める深い巨大なうねりが起こっていることです。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長がとんでもない女性蔑視の発言をしました。一昔前だったら笑い話でごまかすということが通ったかもしれません。しかし、ごまかしがまったく利かなかった。瞬く間に怒りの声が広がって、辞任に追い込まれました。
それから先日、札幌地裁で、「同性婚を認めないのは憲法違反」という画期的な判決がでました。これも一昔前なら考えられない画期的判決です。原告側の弁護団が、「2年前に提訴した時には、こんな素晴らしい判決、予想もしていなかった」と言われていたのが印象的でした。たたかいの先頭にたった当事者の予想すらこえた画期的判決がでる。私は、ジェンダー平等にむけて、いま日本社会がガラガラと変わりつつあると思います。
「世界の構造変化」と核兵器禁止条約――「ある種の革命」との評価も
志位 もう一つ言いますと、世界史を見てほしいと思います。私たちの綱領にも書いてあるんですけれど、20世紀とはどんな世紀だったか。20世紀を振り返ると、二つの世界大戦があった。軍国主義とファシズムがあった。暗いことの連続だったという見方もあるでしょう。でも、そうじゃないんですね。もちろん悲劇がたくさんあったけれども、1世紀というスパン(期間)で世紀を見ていきますと、たいへん巨大な変化をしている。
その最大のものは、20世紀の最初には一握りの帝国主義の大国が、全世界を植民地、あるいは従属国として支配していた。こういう世界だったんです。この植民地体制が、100年間のうちにガラガラと全部崩れて、100を超える主権国家が誕生しました。これを私たちは、「世界の構造変化」と言っているんですけれども、100年単位でみると、人類は巨大な進歩をしているんです。
20世紀に起こった「世界の構造変化」が、21世紀のいまになって、いろいろな素晴らしい力を発揮しだしています。その一つが、今年1月に発効した核兵器禁止条約です。核兵器保有国がみんな反対したのに、世界の多くの国ぐにと市民社会が共同して、ついに、核兵器を違法化したのです。
オーストリアの国連大使でトーマス・ハイノッチさんという方がいます。核兵器禁止条約の先頭にたった外交官で、私も国連本部で懇談したことがある方なんですが、ハイノッチさんが、今年4月の講演で、核兵器禁止条約の誕生は「ある種の革命」だと言いました。つまり、これまでは核軍縮交渉というのは、核保有国が独占していた。ところがついに主役が交代して、世界の多くの国ぐにと市民社会が核軍縮の主役になった。「ある種の革命」というような巨大な変化が起こったというのです。私は、ハイノッチさんのこの見方に全面的に賛成します。
「社会は変わるし、変えられる」。ただ、自動的には変わりません。人民のたたかいによって変わる。この希望をぜひ、広げていってほしいと思います。
身近な切実な願いから出発して、その実現のために力をあわせよう
中山 では学生の方はどうでしょうか。
学生 政治って一般的に難しい話だとか、話していて、楽しくないというふうに思われたりして、話を持ち出すときに、すごく難しいけれど、志位さんは学生時代に周囲の人にたいして政治の話ということで、どういうふうに話していったのかというのを、経験談とか教えていただいて、自分たちに生かせるようなアドバイスとかも欲しいのですが、よろしいでしょうか。
志位 私たちがやっていた当時の学生運動というのは、だいぶ状況も違うもとでのものなので、参考になるかどうかわからないんですが、学生運動をやっているときに一番心掛けたのは、シンプルな話ですが、「学生の要求実現」なんです。当時も学費の問題が大きかったですし、大学の条件整備の問題もたくさんありました。学生にとって身近な、身のまわりの要求を掲げて、みんなで解決していこうという運動にとりくみました。
もう一つ、当時は、「暴力一掃」というのも切実な課題でした。当時は、ニセ左翼のいろいろな集団が「内ゲバ」をやっていまして、大学のキャンパスでも「内ゲバ」をやったりするんです。ですから、「暴力一掃」は本当に切実だった。私たちが学生の時は、「要求実現」、「暴力一掃」というところで頑張ったわけです。
今は条件が違うと思うので、あまり暴力とかはないと思うんですけれども、やっぱり、いまの切実な要求、先ほどいったコロナ危機のもとでの暮らしの願い、キャンパスでもっと勉強したいという願い、そういうみんなの願い、要求から出発して、その実現のために力をあわせる。これは今も昔も変わらないのではないでしょうか。
中山 食料支援ですでに、いろんな関心や疑問を聞いているということなので、そこを出発点にまた、学生のみなさんで話しあってみたらいいかなと思います。(つづく)