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2021年5月26日(水)

きょうの潮流

 「わしの分まで生きてちょんだいよォー」。山崎一さん演じる“おとったん”のせりふが響き渡ると、客席が水を打ったような静けさに包まれました。原爆の残酷さを親子の情愛で描いた井上ひさしの2人芝居「父と暮せば」です(30日まで上演)▼生き残ったことに負い目を感じ、恋心を封印する娘と、恋の応援団長を買って出る父。実は父は原爆で死んでいて、幸せになりたい、と願う娘の心の中の幻影であることがわかってきます。被爆者の女性が一歩を踏み出すまでの物語。山崎・伊勢佳世コンビのユーモアあふれるやりとりと、美しい広島弁が、優しくて切ない▼「バタフライ効果」という言葉があります。一羽のチョウの羽ばたきが、海峡の対岸に嵐を起こすことが、可能性としてあるという理論です。ひさしは演劇で核廃絶のムーブメントを起こそうとしました。「これら切ない言葉よ、世界中にひろがれ」と念じながら▼1994年の初演から27年。翻訳本は6カ国で出版され、上演回数は500回以上に。ひさしの悲願だった核兵器禁止条約は、被爆者の運動もあって今年、ついに発効しました。しかし、日本政府は背を向けたまま。ひさしの嘆きが聞こえてくるようです▼ヒロシマ・ナガサキを「人類史の折り返し点」と位置付け、60歳で執筆。「初めて自分が戯曲を書く意味がわかった」と三女の井上麻矢さんに語ったそうです▼「記憶せよ、抗議せよ、そして、生き延びよ」が信条。「記憶」のバトンは確実に受け継がれています。


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