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2021年4月23日(金)

主張

賃金デジタル払い

安全性ない制度の導入やめよ

 菅義偉政権が賃金を電子マネーで支払える仕組みづくりを進めています。銀行を介さずに「○○ペイ」などのデジタル送金サービスを通じて賃金を受け取れるように規制緩和するといいます。電子マネーを扱う「資金移動業者」には銀行業のような厳しい規制がなく、破綻した場合、賃金が保全されるかも定かではありません。労働組合は反対しています。安全が保障されず、労働者が望まない制度を導入すべきではありません。

破綻時の保全は不明

 賃金は労働基準法で、通貨によって直接、全額支払われなければならないと厳格に定められています。銀行振り込みはあくまで労働者の同意を得た上で可能な、労基法施行規則による例外措置です。これを電子マネーに拡大しようとしています。菅政権が昨年7月に閣議決定した「成長戦略フォローアップ」の中で「『新しい生活様式』に対応した規制改革」の一つとして打ち出しました。

 厚生労働省は昨年8月、厚労相の諮問機関、労働政策審議会の労働条件分科会に「資金移動業者の口座への賃金支払い」を提起し、今年1月から4回にわたって議論されています。

 根拠としているのは2019年に公正取引委員会が行った消費者アンケートで、4割が銀行以外のデジタル決済口座への賃金振り込みを検討すると回答したことです。調査対象はQRコードなどを使ったキャッシュレス決済を利用している人のみ、わずか4000人です。分科会でも根拠とすることに疑問が出されました。6割が検討しないと回答したのに厚労省が「一定のニーズがある」とするのはこじつけです。

 分科会では多くの危険性が明らかになっています。資金移動業者が破綻した場合、財務局に供託してある資金が還付されることになっています。手続きに半年ほどかかる上、賃金全額が保障されるとは限りません。口座を不正利用された場合、銀行の預金者保護法のような補償ルールもありません。

 銀行は政府による許可制ですが、資金移動業は登録制で、要件を満たせばどのような業者でも参入できます。銀行には銀行業とその付随業務に専念する義務が課せられますが、資金移動業に専業義務はありません。他の業種で失敗して破綻する可能性もあります。

 分科会では労働者代表委員が「健全性、安全性に大きな疑問がある口座に労働者の生活の糧を振り込むことを選択肢に加える必要はない」と反対しています。使用者代表委員からは賛成意見の一方、システムの切り替えなど企業の負担増を懸念する声が出ています。

労働者の利益にならない

 厚労省はこれらの問題点を踏まえた「制度設計案」を19日の分科会に示しました。安全対策を講じなければならないこと自体、電子マネー払いの危険性を示しています。昨年はドコモ口座などを通じた不正出金事件が起きました。労働者の生活と権利保障の根幹をなす賃金の支払いに急いで利用すべき理由はありません。

 菅政権はキャッシュレス決済の比率を現状の20%台から2025年までに40%程度に拡大しようとしています。数値目標の達成ありきで、電子マネー払いを賃金にまで広げることは労働者の利益になりません。


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