2021年3月7日(日)
主張
国際課税の協議
抜け穴ふさぐ公正なルールを
国境を越えて活動する大企業が巨額の利益をあげながら課税を逃れている問題で、国際課税の新しいルールをつくる交渉に進展の見通しが出てきました。米国のトランプ前政権の妨害が障害となって協議が難航していましたが、バイデン新政権が方針転換を打ち出したためです。公正な税制を求める各国市民の運動が国際機関や政府を動かしています。コロナ対策の財源を確保する上でも合意の達成が急がれます。
大企業の税逃れ許さない
現行ルールで企業に法人税の課税権を持つのは各国政府です。外国企業の場合、課税の対象となるのは国内に「物理的拠点」を置く企業だけです。経済のグローバル化とデジタル化が進んだことでこの仕組みが実態に合わなくなりました。進出先に支店や工場を置かず、インターネットを使って他国で事業を展開する企業の利益は課税の対象となりません。
典型的なのは頭文字をとってGAFAと呼ばれるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンなどのIT大企業です。GAFAにマイクロソフトを加えた5社の売上高は2020年10~12月期決算で合計3650億ドル(約39兆円)、純利益は624億ドル(約6・7兆円)にのぼります。国境を越えた活動で膨大な利益を得ているのに国の課税権は国境を越えられません。租税回避地(タックスヘイブン)を使った利益隠し、税逃れも行われています。
税制の抜け穴をふさぐため2013年ごろから経済協力開発機構(OECD)を中心に20カ国・地域(G20)で新しいルールの導入が検討され、協議を重ねて合意案がつくられました。多国籍企業が活動する国に「物理的拠点」の有無にかかわりなく課税権を持たせることや、法人税率の国際的な最低基準を設けることが柱です。
この取り組みには1月時点で日本を含む138の国・地域が参加しています。フランス、イタリア、英国などは独自にデジタル大企業への課税に踏み切りました。
トランプ前政権は、米国の多国籍企業の利益を第一とする立場から昨年、国際課税の規則に従うかどうかの選択を企業に委ねることを提案し、これに固執しました。課税される企業が課税されるかどうかを自分で決めるのでは制度が機能しません。当初20年中とされていた合意期限は結局、21年7月まで先送りされました。
しかし米新政権のイエレン財務長官が2月26日、G20財務相・中央銀行総裁会議で前政権案の撤回を表明し、合意の可能性が出てきました。
市民の力が政府を動かす
米国を含め各国政府を国際課税のルールづくりに動かしてきたのは市民の力です。多国籍企業、富裕層の税逃れを告発し、公正な税制を求める運動が欧米などで発展してきました。
米国では昨年の大統領選挙に向けてバイデン氏と民主党候補の指名を争ったサンダース上院議員らが大企業、富裕層への課税強化を主張しました。党内協議の上でまとめられた民主党政策綱領にはこの主張を取り入れた方針が盛り込まれました。英国は50年ぶりに法人税率を引き上げます。
日本政府は財源を消費税に依存する姿勢を改め、公正な税制の実現に踏み出すべきです。