2021年1月1日(金)
日曜版新年合併号 政権交代へ真っ向勝負
総選挙 政治決戦にどうのぞむ
毎日新聞客員編集委員・倉重篤郎さん 志位委員長にズバリ
野党連合政権と共産党躍進に全力
2021年は総選挙の年です。長年にわたって政治の最前線を取材してきた毎日新聞客員編集委員の倉重篤郎さんが、日本共産党の志位和夫委員長にズバリ聞きました。
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倉重 あけましておめでとうございます。
志位 あけましておめでとうございます。いつも『サンデー毎日』に登場させていただいて、ありがとうございます。
倉重 いやいやとんでもない(笑い)。さっそく今年の政局展望を聞いていきたい。菅政権発足から3カ月。どうみていますか。
志位 安倍政権と7年8カ月対決し「戦後最悪の政権」だと批判をしてきました。これ以上に悪いものはそうそう出てこないと思っていましたが(笑い)、強権ぶりという点でも、国民に説明しない、その意思も能力もないという点でも、前任者を超える人が出てきたと思います。
倉重 恐るべきことですね。菅政権誕生の背景に自民党の人材不足はありませんか。
志位 安倍政権のもとで自民党は異論が押しつぶされて、モノトーン(単一色)に染め上げられました。自民党はかつては保守政党として一定の幅をもっていたけれど、本当に狭くなりました。菅政権は自民党の状況を表していると思います。
倉重 菅政権は新自由主義の政権に分類されますが…。
志位 「自助、共助、公助」「まずは自分でやってみる」―。ここまで露骨に新自由主義を「国家像」として語り、「自己責任」を正面から説いた首相は初めてです。新自由主義のこれまで以上の暴走が起こる危険性があります。
政府の成長戦略会議に、小泉「構造改革」を推進した竹中平蔵氏や、“中小企業を淘汰(とうた)して半分にする”と主張するデービッド・アトキンソン氏を起用しました。二人ともウルトラ新自由主義者です。竹中氏は最近も、“国民1人7万円を給付し、生活保護も年金も廃止”という驚がくする発言をしています。
20年12月には、75歳以上の医療費の窓口負担を1割から2割負担に引き上げると決めました。コロナ危機のもとでさらなる「自助」を強いるのは、本当に血も涙もない冷酷な政治です。新自由主義の暴走と正面からたたかう年になると思っています。
倉重 6月に都議選、10月までには衆院選がある政治決戦の年です。どうのぞみますか。
志位 次の総選挙で政権交代を実現したい。菅政権にお引き取り願い、新しい政権―野党連合政権をつくりたいと決意しています。
同時に、日本共産党が躍進しないと先が開けてきません。先月(12月15日)開いた第2回中央委員会総会で比例代表で「850万票、15%以上」を獲得するためにわき目もふらずに頑張ろうという決意を固め合ったところです。今年はここに執念を燃やして頑張ります。
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コロナ・パンデミックで問われる「利潤第一」社会
倉重 新型コロナウイルスの感染が世界でも日本でも広がっています。この危機的状況をどうみていますか。
志位 新自由主義の破たんが世界でも日本でもすっかり明らかになったと思います。
欧州各国で感染拡大による医療崩壊が起きました。EU(欧州連合)の「緊縮政策」のもとでベッド数や医療従事者を減らしてきたツケといわれています。米国でも大きな犠牲が出ていますが、これもまともな公的医療がないところからきています。
日本でも医療の逼迫(ひっぱく)、崩壊が深刻です。1980年代以降、医療費を削り、医者や看護師の数を抑え、公的病院を統廃合し、保健所も半分にしてきた。そのツケが回ってきました。
目先の利益を増やすために、あらゆる規制を取り払い、社会保障も削り、自己責任を強いる――新自由主義が世界でも日本でも大破綻し、コロナ・パンデミック(世界的大流行)のなかで政策転換が迫られています。
倉重 コロナ感染症の歴史的な意味合いについて何かお感じになることがありますか。
志位 歴史をひもときますと、パンデミックは時として人類史を変える契機になりうることがわかります。もちろんウイルスや細菌自体に社会を変える力があるわけではありませんが、社会の矛盾を激化させ、変化を加速させることがある。
例えば、14世紀に欧州を席巻したペストです。これは中世の農奴制の没落の一つの契機になったといわれています。
この数十年、「利潤第一」の資本主義が自然環境を壊し、感染症のパンデミックが多発しています。資本主義による自然破壊という点では気候変動と同根です。コロナ・パンデミックは、「利潤第一」という資本主義のシステムそのものを問うていると思います。
安倍・菅政権の致命的欠陥 「科学無視」と「自己責任」
倉重 日本をみると、菅政権は「Go To」事業への執着が強すぎやしませんか。ブレーキとアクセルの踏み方がうまくいっていないと見えますが。
志位 まともなブレーキなしの暴走車に見えます。安倍・菅両政権の1年間のコロナ対応をみると、二つの致命的欠陥が明らかになりました。
一つは、科学を無視する姿勢です。
新型コロナで一番やっかいなのは、無症状の感染者が、感染を拡大させてしまうことです。無症状の感染者の把握と保護が大事になってきますが、政府にはそのための検査戦略がありません。「検査・保護・追跡」が感染症対策の科学的な大原則なのですが、この大原則が行われていないのです。
「Go To トラベル」はまさに科学を無視した暴走のさいたるものです。専門家が“やめた方がよい”といっているのに、中途半端なごまかしだけで固執し続けている。
倉重 専門家もそういい始めた。
志位 「Go To」を始める時は“専門家がいっている”からと頼りながら、専門家が“やめた方がいい”といっているときは聞かない。ご都合主義の極みです。
もう一つの致命的欠陥は「自己責任」です。国民に自粛や休業を要請する一方で、補償は本気でやらない。野党が頑張って、持続化給付金や家賃支援給付金など一連の直接支援制度をつくりましたが、これも一回限りで打ち切ろうとしています。そして国民に対し、「3密」を避け、手を洗えと。それはそれで大事なことですが、“自分の身は自分で守れ”という姿勢です。
「科学の無視」「自己責任」――これが1年間、続いてきました。結局、感染を抑止できず、国民の暮らしも営業も深刻な状況に陥っています。今年こそ「二つの致命的欠陥」を抜本的に切り替えなければなりません。
医療機関の減収補てんは政府の最低限の責任だ
倉重 医療崩壊も医師会などが相当心配しています。こちらの手当ても必要です。
志位 コロナ対応に真剣に取り組む病院ほど赤字がひどくなるという問題があります。私たちは「減収補てんが必要だ」とずっと主張してきましたが、政府はやろうとしません。
政府は「緊急包括支援交付金(医療分)で2・7兆円投入した」っていうんだけど、肝心の医療現場には8000億円しか届いていない。
現場は、夏のボーナスも、冬のボーナスも出ないところもある。心が折れて辞めていく人もいます。医療従事者に「感謝」をいうのであれば、減収補てんをドーンとして、少なくともお金の面で安心して働ける状況をつくるのが政治の最低限の責任です。
学術会議問題に見える危機
全体主義への転落を許してはいけない
倉重 昨年は日本学術会議会員の任命拒否が問題になりました。志位さんも国会で菅首相に対して、この問題がいかに日本学術会議法に反するか、憲法の精神に反するか、というところできわめて整理された質問をされてきたと思います。『サンデー毎日』でも非常にわかりやすく解説をしてもらいました。しかし国民の意識にはまだ届いていない気がします。
志位 この問題の一番の恐ろしいところは、理由をいっさい言わないままの任命拒否だということです。一部の学者の問題だと思っている方もいるかもしれませんが、理由をいわずに異論を排斥するということがまかり通れば、次は他の分野にいく。言論や表現の自由の侵害につながり、どんな人が標的にされ、排斥されるかわからなくなります。
だから、かつてない広がりで学協会、団体が任命拒否に抗議の声をあげています。例えば「映画人の会」は“映画界にも無縁ではない。学問の自由が脅かされたら次は言論、表現の自由が危ない”と批判しています。
一つ突破されれば、国民全体の自由と人権が脅かされ、日本が全体主義の国へと転がり落ちていきかねない。突破を許してはいけないと、訴えたい。
歴史を考えても、1933年に滝川事件があり、35年に天皇機関説事件がありました。天皇機関説事件の直後、「国体明徴声明」が出され、天皇中心の専制政治の体制=「国体」は神聖不可侵だとなった。35年から45年の10年間、「国体」が国民に徹底的にたたき込まれた。突破口となったのは学問の自由への弾圧だったのです。
まずは学者の口をふさぎ、国論を一色に染め上げ、国民の口をふさぎ、戦争の破滅に行きついた。これが歴史の教訓なんです。この教訓に照らしても、今が分水嶺で頑張りどきだと思っています。
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「安保法制」で総崩れした立憲主義の再建が必要
倉重 菅政権は憲法を根拠に“必ずしも推薦通りに任命しなければならないわけではない”と、よくわからない答弁をしています。しかもこの答弁に「法の番人」である内閣法制局がお墨付きを与えていますね。
志位 「法の番人」の片りんもありません。
倉重 どこで変質したんでしょうか。
志位 2015年の安保法制ですよ。
倉重 あの時ですね。
志位 その前年(14年)に閣議決定で集団的自衛権の行使を容認し、立憲主義が破壊されました。そこを分水嶺として、すっかり内閣法制局としての体をなしていない。
歴代の法制局長官は集団的自衛権の行使には批判的でした。憲法上、許されないことは当たり前だからです。
ところが安倍政権は、内閣法制局長官の首を強権的にすげかえてまで、認められないとしてきた集団的自衛権の憲法解釈を変更させました。以来、内閣法制局には「法の番人」としての矜持(きょうじ=誇り)がすっかりなくなりました。
今回の学術会議の件はその延長線上のことです。
1983年の国会で、当時の中曽根康弘首相はじめ政府側はみんな“任命は形式的なものであり、絶対に拒否はしない”と答弁してきました。それを内閣法制局が2018年にこっそりと解釈を変更したんです。「クーデター的な法解釈の改ざん」だと国会で厳しく糾弾しました。これを許せばいよいよ法治主義が壊れることになる。きわめて深刻な問題です。
倉重 自民党の中にも「政府の解釈はおかしい」という声はありますが、与党のなかで広がりません。志位さんはどう見ていますか。
志位 先ほど集団的自衛権行使容認の閣議決定、安保法制が分水嶺だったと言いました。憲法の一番の要、集団的自衛権の行使の是非という大論争点をいとも簡単に壊してしまった。立憲主義、法治主義の土台をガラガラと崩してしまい、もう怖いものなしになってしまったんです。
倉重 総崩れになった感じはありますね。そこが大きな曲がり角でしたね。
志位 総崩れになった。だから日本の政治、立憲主義を大本から再建しなければならないんです。憲法違反の安保法制を廃止し、集団的自衛権行使容認の閣議決定は撤回する。共謀罪法も秘密保護法も廃止する。学術会議の任命拒否も撤回する。日本の政治の大掃除が必要だと思っています。
「桜を見る会」疑惑暴いた「赤旗」スクープの視点
倉重 20年は「赤旗」日曜版がスクープした「桜を見る会」疑惑も大問題になりました。メディアに携わる者として「赤旗」はすばらしい仕事をしたと思います。「権力の私物化」という切り口で取材をつなぎ、活字にした。ある意味で一般紙が政党機関紙に負けたケースです。ほめ過ぎかもしれませんが。(笑い)
志位 ありがとうございます。(笑い)
倉重 その政党の長としては、誇らしいスクープじゃないですか。
志位 誇らしいですね。なぜあのスクープが生まれたのか。「赤旗」が取材を始める段階では特別の情報を持っていたわけじゃないんですよね。
倉重 スクープというのはそういうものです。
志位 「桜を見る会」は天下にオープンでやられていてみんな知っていた。安倍(晋三・前首相)さんの“お友達”が多いこともわかっていた。ただそれを「権力の私物化」と見るのか、それとも「政権党だからありえることだ」と大目に見てしまうのかの違いだったと思うんです。
倉重 でしょうね。
志位 「赤旗」は「権力の私物化」という視点でとらえた。その点は、「毎日新聞」の紙面(20年11月30日付)でも、自省を込めて評価していただいたところです。
倉重 いやいや、その通りですよ。
志位 ぜひこうした視点を持ってメディアが力を合わせていけたらと願っています。
首相が1年もウソの答弁 証人喚問で真実を語れ
倉重 この事件のポイントは何ですか。
志位 三つあると思います。一つは「桜を見る会」という公的行事を首相が自らの後援会の行事のように私物化した、ということです。税金を使った供応のようなものです。
二つ目は、「桜を見る会」前夜祭で安倍氏側が、補てんを行っていたということです。政治資金規正法や公職選挙法の違反が問われる重大疑惑です。
そして三つ目は、ときの首相が1年間にわたって、国会でウソの答弁を続けてきたことです。これは非常に罪が重いと思います。
倉重 重いですね。安倍さんは本当に知らなかったんですかね。
志位 普通はあり得ないでしょうね。
倉重 ありえない。普通は秘書との“共謀”です。国会はウソをつかれた被害者ですから、国民の代表機関としてしめしをつける必要があります。
志位 安倍さん本人に国会に出てきてもらい、真相を語ってもらわなければなりません。
この疑惑で安倍さんがつらいのは、官僚が誰も守ってくれないことなんですよ。「森友・加計」の時には、役人が必死に守ったけれど。
倉重 そう。おっしゃる通り。
志位 「桜」ではだれも「壁」になって守ってくれない。だから安倍さん自身が無理を重ねてありえないストーリー(物語)をつくって、説明するしかなかったんです。それがウソだったことが明らかになった。
倉重 これは深刻ですわな。安倍さんにとってはね。
志位 非常に深刻な話です。今後はウソが罪に問われる証人として国会に出てきてもらい、証人喚問で真実を話してもらうことを強く求めていきます。
倉重 歴代首相も自らの疑惑では証人喚問を受けてきたんです。中曽根さんは、ロッキード事件、リクルート事件で、竹下(登)さんは皇民党事件などで。安倍さんだけやらないわけにいかない。真相を語り議員辞職するのが妥当だと思います。同時に当時、官房長官だった菅(義偉)首相にも責任がありますね。
志位 当然、あります。誰が考えても安倍さんの答弁はつじつまが合わなかったのに、官房長官として事実を確かめず、ひたすらかばい続けた。この責任は重いと思います。
それから行政府の長である菅首相はこの問題の調査を拒否していますが、「桜を見る会」は政府の行事です。私物化された疑惑があれば、行政府の長が再調査してウミを出すのは当たり前です。“もう終わったこと。桜を見る会は今後はやらない。だから調査もしない”と、このまま疑惑にフタをすれば、菅首相自身の新たな責任が問われてきます。
公明党は「イチジクの葉」 悪い政治を覆い隠す
倉重 スキャンダルに対する批判が公明党からもでていません。与党の「ブレーキ」役が働いていない印象です。
志位 まったく働いていません。結局、公明党が与党でやってきたことは「イチジクの葉」みたいなものなんですよ。
倉重 ほー、なるほど。
志位 悪い政治をともかくも覆い隠す役割です。集団的自衛権の行使容認の閣議決定も、安保法制も、本当は公明党にとっては引くに引けない線だったはずなんです。議論のすえ、どう決着をつけるかなと思っていたら、自民党の軍門に下ったのか、こびへつらったのか分かりませんが、結局、安保法制の「推進者」になりました。骨の髄まで自民党と一体だなと、あの時に思いましたね。
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超大国の圧力に従わずに広がる核兵器禁止条約
倉重 視野を世界に広げて、今年の展望と課題をお聞きしたい。核兵器禁止条約が間もなく発効(1月22日)されますね。
志位 世界史的な出来事です。私も2回、ニューヨークの国連会議に参加し、発言もして、各国政府・市民運動と協力しながら条約づくりの場に参加してきました。喜びもひとしおです。何といっても、核兵器が違法化された。
倉重 国際法上、違法なものとなった。
志位 そうです。「悪の烙印(らくいん)」がボンと押された。核兵器保有国は「違法国家」になります。国際社会で非常に大きな規範力を発揮し始めると思うんです。
この条約をめぐる一連の米国政府の動きは非常に重要な意味を持っています。条約発効にいたる過程で、米国は、各国政府に条約への不支持・不参加を求める脅迫的な書簡まで送りつけていた。ところがこうした圧力をはねのけ、途上国や小さな国も含めて堂々と条約を批准していったんです。
世界の構造変化を象徴的に示していると思います。ひと昔前なら超大国の圧力に従わざるを得なかったかもしれないが、もう従わない。追い詰められた米国の焦り、恐れが、核兵器禁止条約発効の一連の過程ではっきり見えてきました。
倉重 なるほど。焦りが。
志位 アメリカの側が大局的には追い詰められてきている。焦っている。20年12月の国連総会で“核兵器禁止条約を歓迎し推進を呼びかける”という決議があがり、130カ国が賛成しました。3年前の核兵器禁止条約採決で賛成した国は122カ国でしたから、8カ国増えました。国際社会での賛成が広がり、核兵器の違法化が世界の本流になっています。
倉重 唯一の戦争被爆国・日本が批准するためにはどうすればよいのでしょうか。
志位 政府を代えるしかありません。政府は核保有国と非核国の「橋渡し」をするといいますが、やっているのは米国と核兵器大国の「お先棒担ぎ」です。
20年8月、広島で党首討論会に出ましたが、野党側はみんな核兵器禁止条約に賛成です。日本の参加の一番の早道は政権交代です。
米民主党の公約に注目 富裕層課税、最賃15ドルなど
倉重 そのアメリカではバイデン政権が誕生し、やや協調主義的な体制に戻りつつあります。志位さんは米大統領選をどうみていましたか。
志位 まずトランプ氏の「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)が否定されたというのは非常に大きな出来事です。バイデン氏はWHO(世界保健機関)や気候変動対策のためのパリ協定に復帰する意向を示しています。感染症対策や気候変動問題で肯定的な動きが出てくる可能性に注目しています。
もう一つ、今度の選挙で私が注目したのは民主党の選挙公約です。大企業・富裕層への課税、最低賃金15ドル、公的医療保険など、米国民の願いを反映した内容が入っています。バイデン氏がその通りに動くかどうかは分かりませんが、民主党が公約した以上、重みがあります。この方向で動けば、米国で新自由主義からの一定の転換が起こる可能性があります。世界にも影響を与えるでしょう。
倉重 日本に対する影響はどうなりますか。
志位 日米関係は簡単にはいきません。バイデン氏が「国際協調」という場合に、「良い国際協調」と「悪い国際協調」の二つがあるんです。
WHOやパリ協定への復帰は「良い国際協調」です。
一方で、バイデン氏は「アメリカ中心の軍事同盟網は強化する」とはっきりいっています。日米でいえば日米軍事同盟の強化です。安保条約、安保体制の強化の方向は変わらない。これに関しては、唯々諾々と米国に付き従う日本の政治を変えていくことが大事になります。
重大化した中国の無法 「国際法守れ」外交包囲を
倉重 安全保障の話が出ました。中国の台頭と米国の力の低下で東アジアでも変化が起きています。日本の持続可能な安全保障はどうあるべきか。共産党はどんな政策を打ち出しますか。
志位 中国は、東シナ海や南シナ海での力による現状変更の動きを強めています。覇権主義の行動です。香港やウイグルなどでの人権侵害もエスカレートしている。この両面が非常に重大化していると思います。
どう抑えていくのか。私は、中国が軍事を背景に行動しているときに、こちらも軍事で対抗ということには反対です。
倉重 今の政権の路線ですね。
志位 そうです。「軍事対軍事」で構えればエスカレートし、どこかで衝突が起きます。
倉重 しかも持続可能なやり方ではない。
志位 そうです。危険な道です。私たちは反対です。
ではどうするか。中国の無法には、「国連憲章と国際法を守れ」という外交の力で包囲していくことが一番大事だと思うんです。東シナ海・南シナ海での覇権主義的行動も、香港などでの人権問題も、いずれも国連憲章、国際法に反しています。「国際法を守れ」という外交的な包囲が大事だと思います。
日本共産党は中国に対し、そういう立場できっぱり批判をしてきました。実感からいえば、中国にとって、正論をいわれ、正面から批判されることが一番痛いんです。
倉重 痛い?
志位 そうですね。4年前の第27回党大会(2017年)をめぐって印象深いことがありました。決議案に中国に「新しい大国主義・覇権主義の誤り」があらわれていることを、かなり突っ込んで書きました。そうしたら、当時の中国大使だった程永華氏が党本部にやってきて、私に「会いたい」というので、1時間半ほど会談をしました。程氏は決議案の中国批判を「削ってくれ」というんです。
倉重 ずいぶんストレートですね。(苦笑)
志位 私は「とんでもない」といって、批判の理由を一つひとつ話し、削除をきっぱり断りました。
会談のなかで、程氏は、「日本共産党が中国を批判すれば敵が喜び、右翼が喜ぶ」といいました。これには私も厳しく反論しました。「わが党はいま安保法制、日本の軍事化に反対してたたかっている。『敵が、右翼が喜ぶ』とはあまりにも礼を失した発言ではないか。率直にいうが、中国の大国主義・覇権主義的ふるまいが、どれだけ安倍政権が安保法制=戦争法を進める口実とされているか、日本の運動の利益をどれだけ損なっているかを、真剣に考えてほしい」と。
倉重 そこまでいったんですか。
志位 いいました。中国はとにかく公に批判してほしくない。とくに、日本共産党から批判されたくないのだなと感じました。
人権侵害は国際問題 国際条約に中国も賛成
倉重 20年1月の綱領改定で中国批判を明確に位置づけましたね。私は日本外交の最大の課題は中国とどう向き合うかだと思っています。各党が中国に対して腰が定まらないなか、日本共産党は明確な路線を打ち出しました。
志位 中国は近い将来、経済力では世界一の巨大な国になる状況です。その国に覇権主義と人権侵害という深刻な問題が表れている。これは世界の平和と進歩にとって絶対に見過ごせません。
倉重 一方で中国は、地政学的には共存しなきゃいけない距離です。
志位 その通りです。だからこそ排外主義の立場からの批判ではなく、事実と道理にたって批判をしています。日中両国、両国民の真の友好を考えても、間違いに対しては「間違っている」と正面から理をつくして指摘する。そうしてこそ、真の友好関係を築けるのではないでしょうか。
倉重 香港やウイグルなど中国の人権問題に対して、これからも積極的にコメントしていかれますか。
志位 もちろんです。人権問題を批判すると、中国側はよく「内政干渉だ」といいます。しかし、重大な人権侵害は内政問題ではなく、国際問題だとはっきりさせる必要があります。これまでに世界人権宣言、国際人権規約、ウィーン宣言など、人権擁護のさまざまな国際条約、規範がかわされています。大事なことは、そうした国際条約に中国が自ら賛成していることなんです。
倉重 なるほど。
志位 賛成しているのであれば、それを守る国際的な責務がある。香港の問題はそれに加え、高度の自治を保障した「一国二制度」という国際公約もあります。国際的な約束を二重に破っているわけで、それに対する批判は内政干渉ではありません。
100万人の単位で強制収容がされている、ウイグルでの人権侵害も深刻です。20年10月、国連総会第3委員会で「新疆ウイグル自治区の人権状況と香港の最近の動向に重大な懸念を表明する共同声明」が発表されました。ドイツが中心になって39カ国の共同声明になりました。EUのほとんどの国が入っています。これまで中国と比較的、友好だった欧州各国も批判を強めています。私はこれをみて、中国が外交的に孤立しつつあることを感じました。
「どこかの国敵視」でなく独立と主権に責任負う
倉重 産経新聞も志位さんの中国批判を大きく報じていますね(笑い)。興味深い現象です。「産経」も自民党の言説ではモノ足りないのでしょうか。
志位 あまり意識していませんが…(笑い)。政府・与党の問題点は、中国の「脅威」を利用した軍拡には熱心なのですが、正面きってモノをいうことができないことです。これは最悪の外交姿勢です。
倉重 米国にもモノがいえませんね。
志位 米国にも中国にも、そしてロシアにもモノがいえない。この三つの国は、どれも覇権主義の大国ですが、日本はこの三方にペコペコしています。
倉重 ロシアの話が出てきました。「北方領土」についても共産党は明確な見解を打ち出している。意外とナショナリストの印象を受けます。
志位 領土問題に対する私たちの立場を一言でいえば「日本の独立と主権に対して責任を負う」ということにつきます。どこかの国を敵視するのではありません。そのさい一番大事なのが、先ほど申し上げた国際法と歴史的事実なのです。
ですから尖閣、千島、竹島問題、あらゆる領土に関する紛争問題について、国際法と歴史的事実に照らしてどうか、かなり突っ込んで見解を明らかにしています。
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野党共闘を進めた5年 「政権協力」で魂を込める
倉重 さて21年は政治決戦の年です。野党共闘路線へ転換して5年。委員長としての感慨はいかがですか。
志位 転換してよかったと思っています。16年と19年の参院選、17年の総選挙、3回の国政選挙を共闘でたたかいました。共闘したからこそ、自民党は参議院で単独過半数を割り、改憲勢力も3分の2を割りました。共闘していなければ、国会が自民党の“絶対支配”のもとにおかれ、今ごろ憲法9条が変わっていた可能性もありました。
同時に、大きな課題も残されています。新しい政権を協力してつくる合意がまだないということです。
倉重 そこですね。
志位 「菅政権を倒そう」というところまでは合意していますが、倒した後に「一緒に政権をつくろう」という合意がまだない。これは目下のところ努力中です。「政権協力」での合意ができて初めて野党共闘に魂が入ると思うんです。
「うまくいっていない」と書くメディアもありますが、前に向かっていますよ。臨時国会での首相指名選挙では、野党がそろって立憲民主党の枝野幸男代表に投じたじゃないですか。これからの話し合いで、合意に到達したい。「新しい政権を協力してつくろう」となれば、野党に対する国民の見方は一変します。
閣外も閣内もありうる
倉重 共産党は正論をいい、調査能力も高い。しかし政権からは遠かった。政権に入って自分たちのめざす政治を実現したいという思いが、路線を転換した背景にあるんですか。
志位 野党共闘路線へ転換した一番の動機は、「日本の政治が非常事態に入った」という認識なんです。安保法制の強行で立憲主義が壊された。憲法に基づいた政治は絶対に守るべきデッドライン(限界線)です。それを超えた暴走政治を止めるためには政策の違いがあっても野党が協力しないといけないという、やむにやまれぬ思いからなんです。
倉重 気の早い人もいて、共産党は閣外協力か閣内協力か気にする人もいます。何かイメージはありますか。
志位 共闘を始めた最初から「どっちもありうる」といっています。大臣のポストが欲しくて私たちは野党共闘をしているわけではないですから。パートナーとなる勢力とよく話し合って決めていけばいい。
倉重 志位さんは外務大臣になったらいいと思う(笑い)。国際法と国連憲章に基づいた外交というのは世界に通用するでしょう。
志位 先の話はあまりしないほうがいい(笑い)。政権での協力の度合いはいろいろありえます。あらかじめこうでなければといったことは、一度もありません。
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広がった「共産党と協力」 政権交代へ今年が正念場
倉重 志位さんはこの5年で永田町の見事な政局のプレーヤーとなり、存在感が増した。その存在感はますますもって、私は拡大されると思いますよ。委員長になって20年。一番きつかったのはいつ頃なんですか。
志位 委員長になった2000年から10年間は、自民か民主か「二大政党の政権選択」論が政局を覆っていました。
倉重 白か黒か選べと。これはきつかったでしょうね。
志位 「共産党は蚊帳の外」とされた。きつかったですね。選挙でどんなに頑張ってもなかなか結果に結びつかない。
そういうなかで政権交代があり、いろんな失敗もあって民主党政権が倒れたあと、共産党を見直す流れがおこりました。13年参院選と14年総選挙で連続躍進し、躍進した力も後押しとなって、15年に共闘路線に転換しました。この5年で、だいぶ政治の風景も変わってきたと思います。
私自身、政界でいろいろな方とのお付き合いも増えました。共闘路線を評価してくれる文化人や知識人も増え、運動団体のなかでも「共産党と協力していこう」という方々がずっと広がってきました。
倉重 お付き合いが増えた中に小沢一郎(衆院議員)さんがいると思いますが、いまかなり信頼関係がありますね。なぜですか。
志位 理由は簡単です(笑い)。15年に「国民連合政府」を提唱したとき、各党に提案をお持ちしました。その時に「これはいい。協力してやっていこう」と二つ返事で賛成してくれたのが小沢さんでした。以来、共闘という点で、互いに信頼し協力してきました。
倉重 彼はあらゆる「平成」政局の仕掛け人でした。話をすると参考になりますか。
志位 なりますね。2回も政権交代を果たした人ですから。話をしていると、とても刺激的です。
倉重 政局仕掛け人の小沢さんとしては志位さんにもっと修羅場を踏んでほしいと思っているんじゃないかな。
志位 政権交代を目指す今年が最大の正念場になると思っています。絶対に負けられない。とことん頑張るつもりです。
倉重「志位さんは、かつては音楽の道も」
ショスタコーヴィチを聴くとものすごいパワーがわきます
倉重 志位さんは、かつては音楽の道に進むことも考えたそうですね。政治決戦の今年、志位さんはどんな音楽を奏でてのぞみますか。
志位 奏でる音楽ですか(笑い)。うーん。聴くなら、たたかいにのぞむときにはショスタコーヴィチですね。
倉重 ああそう。私は聴いたことないんですけど。(笑い)
志位 ショスタコーヴィチの交響曲第4番とか第8番は、ものすごいパワーが出てきますね。ぜひ聴いてみてください。たたかいにのぞむうえで聴く音楽は、力がわきあがってくるものがいいですね。気持ちを落ち着かせるにはバッハがいい。
倉重 得意な曲は。
志位 バッハは何でも難しいけれど、平均律ピアノ曲集という素晴らしい大傑作がありまして、今年は一曲でもきちんと弾けるようになろうかなと。(笑い)
倉重 最後に改めて抱負をお聞きしたい。
志位 必ずある総選挙で勝って、政権交代し、野党連合政権をつくる。同時に、共産党を何としても躍進させたいと決意しています。共闘の勝利と共産党の躍進――この二つの双方を達成する取り組みに執念を燃やして頑張ろうと思っています。
倉重・志位 ありがとうございました。