2020年12月8日(火)
希望の泉として読みつがれて
旭爪あかねさんを悼む
浅尾大輔
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逝去の知らせを受けた11月8日、私が暮らす寒村の夜は、満天の星々で埋め尽くされました。でも、あなたの圧倒的な存在感に、私の目はくらんでいたのです。
作家・旭爪(ひのつめ)あかねは、日々、競争と効率に支配された資本主義社会と向き合い、人間は一人ひとりの歩く速さで豊かに生きることができるという確信と新しい世界を提示しました。あなたが、この世からいなくなることは、今後も描かれるはずだった新世界が丸ごと消えてしまうことであり、そのことがどれほど人々を心細く寂しくさせることでしょう!
衝撃の長編デビュー作「世界の色をつかまえに」、多くの読者の心をわしづかみにした「しんぶん赤旗」連載小説「稲の旋律」、その後、次々と生み出された小説は、資本主義の生きづらさに直面した若者たちの咆哮(ほうこう)と不器用な優しさの形象であり、群れをなして目指す希望の泉として読みつがれてきました。しかし、今も物語の中で叫び声をあげている彼ら彼女らの人生が、大きく羽ばたき、成熟する、まさにこれから!という時に、あなたは忽然(こつぜん)といなくなってしまったのです。悔しい。本当に悔しい。
あなたと『民主文学』誌を通して切磋琢磨(せっさたくま)した20年余りの結末を考えます。あなたの才能に嫉妬し、憧れ、やがて「旭爪あかね」と共に『民主文学』誌に作品を発表することで、私の醜い心は克服され、より高い文学の地平へと歩み出せたのだ、と。あなたは、私の唯一の目標であり、かけがえのないパートナーでした。
私は、あなたが折にふれて語った苦悩や登場人物の七転八倒は、やはり作家・旭爪あかねに備わる天性の向日性が導いていたと思うのです。仲間の前で、深刻な表情を見せたかと思えば、一言二言小さなユーモアを呟(つぶや)いて「ハハハッ」と笑う旭爪さんの真剣な明るさばかりが思い出されるからなのです。
作家・旭爪あかねの遺志を継ぐことは、私たちが作品を書くこと。彼女が愛した『民主文学』誌を通して、よい作品を発表し、文学を愛する仲間を増やすことです。しかし本物の作家とは、なんと孤独で貧しく、なにゆえに茨(いばら)の道を選ばれて悠然と歩んでいかれるのか。
旭爪さん、どうか、やすらかにお眠りください。
(あさお・だいすけ 作家)