2020年11月30日(月)
主張
菅政権の地銀再編
地域経済に不利益もたらすな
地方銀行の数が「多すぎる」と主張する菅義偉首相のもとで政府と日銀が地銀の再編を加速させています。地銀の経営悪化に対して統合や合併で収益力を強化することを目的としています。問題の大本にあるのは、安倍晋三前政権下で深刻化した地方格差と、日銀による「異次元の金融緩和」です。根本的な問題を正さず、コロナ危機で地域経済が非常事態にあるときに地銀に再編を急がせれば、中小企業や顧客の住民が不利益を被ります。統合や合併は銀行の自主的な判断に委ねるべきです。
中小企業と住民に打撃
地銀などの統合・合併で市場占有率が高まることを独占禁止法の適用除外とする特例法が27日施行されました。政府は特例法の期限である10年間、合併を含めて「経営力の強化」を地銀に促す方針です。来年の通常国会には、地銀などが合併する際の費用を補助する法案を提出します。日銀は地銀の日銀当座預金に年0・1%の金利を上乗せする制度を発表しました。経営統合や経費削減に取り組むことが条件です。いずれも政治主導で再編を推進する政策です。
地銀102行の9月中間決算は60行が減益または赤字でした。コロナ危機で貸し倒れに備えた費用が膨らみました。地域の中小企業も、それを金融で支える地銀もかつてない厳しさに直面しています。そのさなかに金融行政が「収益力強化」ばかり追求すれば、金融機関が貸し渋り、貸しはがしに走る恐れがあります。
経営統合によって県内の地銀が独占状態になることに、地元企業から「県内の地銀が一つになれば選択の余地がなくなる」「貸し渋りにあったら他の相談先がない」と不安の声が上がっています。
地方ではすでに銀行の支店や金融窓口のない地域が増えています。二つの地銀が合併して10月に発足した長崎県の十八親和銀行は今後、全支店の4割にあたる71店を統合する計画です。住民の高齢化が進む中で、近くの支店が削減されることが懸念されています。過疎化が一段と進みかねません。大和総研の調査では地銀と都市銀行を合わせて今後数年間で約1000の店舗削減が計画されています。サービス低下と雇用への悪影響は必至です。
地銀の経営基盤は中小企業の減少で弱体化させられてきました。自民党政権が1999年に中小企業基本法から格差是正の理念を放棄した後、484万社あった中小企業は2016年には358万社に激減しました。地銀の顧客が4分の1減ったことになります。
安倍前政権が「アベノミクス」の「第1の柱」に位置づけた日銀の異次元緩和と、2016年に導入されたマイナス金利政策は金融市場の金利を極限まで引き下げ、貸し出しで利益をあげる銀行の本業を圧迫しています。
アベノミクスの転換こそ
菅政権はアベノミクスの継承を宣言しています。その上、政府が地銀を目先の利益追求や経費削減に駆り立てても地域の経済と金融は衰退するばかりです。地元の中小企業と住民に金融サービスを提供する、本来の役割に地銀の存在意義があります。地方を疲弊させたアベノミクスこそ転換しなければなりません。いま政治に求められるのは中小企業と地域経済を応援する政策です。