2020年11月27日(金)
主張
陸上イージス代替
破綻した計画は断念すべきだ
防衛省が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」(陸上イージス)の代替案に関する調査の中間報告書の概要を明らかにしました。それによると、代替案として最有力視されているイージス艦型の場合、必要とされる2隻分の導入費用は4800億~5000億円以上になります。政府が導入を断念した陸上イージスの2基分約4000億円を大きく上回ります。しかも、今回の試算は導入費用だけで、維持整備費は含まれていません。総経費は際限なく膨らむ危険があり、右肩上がりを続ける軍事費をさらに押し上げることにつながります。
最も高額な洋上兵器
安倍晋三前政権は今年6月、迎撃ミサイルのブースター(推進装置)を自衛隊演習場内や海上に確実に落下させることができないとして、陸上イージスの配備計画を断念しました。しかし、菅義偉政権は、その代替案として陸上イージスの構成品を「移動式の洋上プラットフォーム」に搭載する方向で検討を進めています。
防衛省は10月に国内民間企業に代替案に関する調査を委託し、このほど中間報告書がまとめられました。これを受け、その概要を25日に自民党の国防部会・安全保障調査会の合同会議に示しました。
概要では、代替案として▽すでに米ロッキード・マーチン社と契約している最新型レーダー(SPY7)など陸上イージスの構成品を新たに建造する護衛艦に搭載する案(イージス艦型)▽民間船舶に搭載する案(民間船舶型)▽石油採掘装置のような施設に搭載する案(洋上リグ型)―が検討されています。
イージス艦型は、最新鋭の「まや」型(建造費約1700億円)をベースにするものの、陸上イージスの構成品を載せるため船体の全長を数メートル大きくすることなどが必要となり、1隻の導入費用は2400億~2500億円以上になります。導入費用が一番低いと見込まれる民間船舶型も1隻で1900億~2000億円以上とされます。いずれにせよ自衛隊史上最も高額な洋上兵器となります。
最有力のイージス艦型が、陸上イージス導入のそもそもの建前に反するという問題もあります。
防衛省は陸上イージスの導入によって、ミサイル防衛任務に就くイージス艦の乗組員が長期の洋上勤務を繰り返し強いられるという問題を解消し、24時間365日態勢での監視を可能にすると強調してきました。新たなイージス艦を建造する代替案は人員不足にある海上自衛隊の負担をいっそう増大させるもので、同省の口実からしても本末転倒にほかなりません。
出発点は米国の要求
もともと陸上イージス導入の計画自体がそれまでの防衛省の説明と矛盾するものでした。同省は、ミサイル防衛能力を持つイージス艦が8隻体制になることや最新型の迎撃ミサイルを導入することで日本全国を継続的に防護することが可能になるとしてきました。
ところが、トランプ米大統領から米国製兵器の追加購入を迫られ、陸上イージス導入が決まりました。米有力シンクタンクからは、その狙いがハワイやグアムの防衛にあることがあけすけに語られてきました。陸上イージスやその代替案の破綻は明白です。今こそ、きっぱり断念すべきです。