2020年11月16日(月)
主張
過労死の根絶
今こそ異常な働き方をただせ
新型コロナウイルスの感染拡大のもとで医療・福祉、交通・運輸など社会を支える労働者「エッセンシャルワーカー」が異常な働き方を強いられています。厚生労働省の「過労死等防止対策白書」(10月30日発表)が明らかにしました。もともと長時間労働が慢性化していた業種で働く人たちの負担が、コロナ危機でさらに過重になっています。安倍晋三前政権の「働き方改革」で罰則付き残業規制の例外とされた職があることも大きな要因です。政府が掲げる「過労死ゼロ」の目標に逆行する深刻な事態です。
週80時間労働が2万人増
白書によると、コロナ感染が急拡大した3~5月、「過労死ライン」とされる週80時間以上就業した人は運輸・郵便業と医療・福祉であわせて前年同期より2万人増えました。厚労省の相談窓口や過労死弁護団には、長時間労働や極度の緊張を強いられた労働者からの訴えが相次ぎました。コロナ対策を強化するためにもエッセンシャルワーカーの待遇改善と人手不足解消が欠かせません。
また白書が明らかにした、過重労働にかかわる労災請求は2019年度全体で脳・心臓疾患が936件でした。統計を公表し始めた2000年度以来、2番目の多さです。精神障害は2060件と過去最多でした。労災認定された自殺は未遂を含め88件ですが、警察庁の統計では仕事上の問題を原因とする自殺は07年以降ほぼ毎年2000人を超えています。
こうした中で政府が行っているのは財界・大企業の要求に応じた規制緩和です。安倍前政権が野党、労働組合の反対を押し切って強行した「働き方関連法」は、労働時間の規制を完全になくす「残業代ゼロ制度」を導入しました。
同法は、労働者の要求を反映して、残業に初めて罰則付きの上限を設けましたが、上限は「月100時間未満」「2~6カ月平均で月80時間」と、過労死水準を容認しました。例外規定も多く、自動車運転手や医師への適用は24年4月に先延ばしされました。1998年の労働省告示は残業の上限を週15時間、月45時間、年360時間と定めています。これを労働基準法に明記すべきです。
残業時間の青天井を容認する36協定の特別条項は廃止する必要があります。
「働き方関連法」は終業と翌日の始業の間に一定の休息時間を確保する勤務間インターバル規制を盛り込みましたが、努力目標であり、最低限の時間も定められていません。連続11時間以上のインターバルを法に明記すべきです。
規制形骸化は許されない
コロナ禍を機に財界がさらに労働時間の規制緩和を狙っていることは見過ごせません。経団連は「新成長戦略」で「時間・空間にとらわれない柔軟な働き方への転換」を打ち出しました。
憲法第27条2項は賃金、就業時間、休息など勤労条件に関する基準を法律で定めることを国に命じています。基準に強制力を持たせなければ国民の生存権を守れないからです。この精神に照らせば、労働時間の法規制を形骸化させることは許されません。
コロナ禍で生活と働き方が見直されている今、「8時間働けば普通に暮らせる社会」の実現は切実な課題です。