2020年10月28日(水)
主張
21年米 作付け削減
需給と米価安定は政府の責任
米の収穫を終えつつある農村でいま深刻な不安が広がっています。米の在庫が積み上がり、米価が下落し、2021年の主食用米の作付けの大幅な削減が迫られているからです。古くから営々と築いてきた日本の米作や水田が一気に荒廃しかねない事態です。
新潟県1県分に匹敵する
農林水産省は16日、21年産の主食用米の需要や生産量の見通しを公表しました。コロナ禍で生じた米需要の大幅減少のもとで需給を均衡させるためとして21年産の作付面積を20年より10万ヘクタール前後(生産量で56万トン)減らすことを求めています。これは新潟県1県分に匹敵する過去最大の減産です。農業関係者に多大な負担と苦痛を強いるのは必至です。
すでに20年産の取引価格は「米余り」を反映して前年比で20%前後下落しています。政府は、19年産米が大量に売れ残っている現状では、さらに“大暴落する”と危機感をあおり、米価安定のためには大規模な減産しかないと産地に迫ったのです。
しかし今回の事態を招いたのは、コロナによる消費減少だけではありません。米の生産や流通に市場原理を拡大してきた歴代政府の農政にも重大な責任があります。とりわけ安倍晋三前政権は18年産から米農家への戸別所得補償を廃止し、国による米生産調整の配分の中止などを強行しました。
政府は米生産数量の「目安」を示すだけで、実行は生産者団体の自己責任とし、豊作等で生産量が需要を上回っても何の対策も取りませんでした。水田を食用米から他の作物へ転換しようとしても、競合する農産物の輸入を政府が野放しにするなど、生産者にとって不利な状況を広げてきました。これでは生産調整が機能しなくなるのは明白です。
「自助」を強調する菅義偉政権は、その延長線上で、自らの責任を棚上げし、コロナ禍で生じた異常な需要減の“解決”まで産地に押し付けようとしているのです。
日本の米作は、文字通り重大な困難に直面しています。米を市場に委ねた1995年以降、生産者米価は2万2000円台から1万円台前半に低下し、多くの農家が生産費を賄えなくなり赤字生産を強いられました。多数の中小農家が米作りをやめ、規模拡大した経営も営農を断念する事態も生まれています。これ以上、市場任せの無責任な米政策を続ければ農村の崩壊に拍車がかかるのは必至です。
米作と水田は主食の供給だけでなく、日本社会の伝統や文化、歴史を育んできた国の土台です。米国や欧州連合(EU)では主要な作物で過剰が発生した場合、政府買い入れを増やして価格を下支えしています。目先の効率を優先し、地域や生産者の「自助」を強要する従来の農政を根本から転換し、政府が責任を果たすべきです。
当面、コロナ禍等による過剰在庫を緊急に政府が買い上げ、米価暴落を回避することが必要です。
所得補償と価格保障を
米の需給や価格の安定に政府が責任を持ち、麦・大豆の増産に見合って輸入を抑制するなど、主食用米以外の作物を安心して作れる条件を整えることが不可欠です。戸別所得補償の復活をはじめ、麦・大豆、飼料作物などの生産費に見合った価格保障を実現することが一層重要になっています。