2020年8月3日(月)
手話通訳者 仕事が激減
コロナで依頼途絶え 多くは個人事業主・非正規
「専門職にふさわしい待遇を」切実
首相や知事の記者会見などで手話通訳者の姿を頻繁にテレビで見るようになりました。仕事が増え多忙かと思いきや、新型コロナウイルスの感染拡大で仕事は激減。収入も減っているといいます。手話通訳者の身分は、多くが不安定な個人事業主(フリーランス)です。専門職にふさわしい待遇や身分保障を強く求めています。(遠藤寿人)
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手話通訳の技術向上に取り組む「日本手話通訳士協会」(士協会)によると、企業などが在宅勤務を実施、会議の開催などをやめたため、5、6月の依頼数は、昨年同月比60%減に。休校になり、卒業・入学式、保護者会などでの依頼がゼロになりました。
士協会は「コロナ禍で収入が80%減った人もいます。手話講習会も軒並み中止になり、収入が途絶えている人が多い」と話します。
手話通訳派遣事業は、障害者総合支援法に基づく市町村の派遣事業で、聴覚障害者に派遣されます。手話通訳者は市町村等から報酬を受けます。
厚生労働省が認定する「手話通訳士」(総数約3800人、女性90%、男性10%)の資格を取ると、ニュースなど公的な場で通訳ができます。都道府県認定試験をとおると地域での活動が広がります。
不安定
手話通訳者の働き方は「登録型」と「雇用型」に分かれます。雇用型(約2000人超)は、福祉・医療分野などの団体や自治体に雇用されています。
大半は登録型(約8000人超)で、各市町村や市町村から派遣業務を受けた事業体などに登録しています。
登録手話通訳者の身分は不安定です。あくまでも、自治体や団体に「登録」しているだけで、雇用関係や労働契約を結んでいるわけではないからです。時々の仕事の依頼を、個人請負の形で受ける個人事業主になります。
労働契約を結んでいないため、「労働者」と認められず、職業病の頸肩腕(けいけんわん)症候群の補償を求める裁判では、労災と認められませんでした。休業補償もなく通院費用も自己負担です。
平時でも、いつ仕事を依頼されるのか分からず、1回、数時間の手話通訳は、労働単価は低くなっています。
手話通訳は、ボランティアとして始まりました。いまだに「ボランティアの謝礼金」といった程度の低報酬を受け取る“有償ボランティア”扱いです。
東京手話通訳等派遣センターの高岡正センター長は「フリーランスなので持続化給付金を申請した人も多い。しかし、聴覚障害者が病院に行くときには、手話通訳者もハイリスクを負って長時間、派遣に応じているのに、医療従事者や介護関係者、障害者施設関係者と違って、公的な見舞金や一時金が出ません」と訴えます。
低評価
一方、雇用手話通訳者の多くは、「非正規雇用」です。手話通訳者の社会的地位の向上を目指す「全国手話通訳問題研究会」(全通研)が、5年ごとに労働と健康の実態調査を実施しています。
最新の調査(2015年)では、福祉・医療・教育分野で雇用されている手話通訳者は1099人。うち82・1%が非正規職員と、きわめて不安定です。
自治体に雇用された非正規職員(週5日以上勤務)の月収平均は男16・2万円、女18・7万円。「専門職にふさわしい待遇に」が44・8%、「正職員化を希望する」が36・6%、「給料が安い」が30・4%と、切実な意見が出されています。
全通研は「手話通訳者の数の不足と労働条件の劣悪さ、専門性の評価不足により、健康障害が続いています。身分保障も労災もなくコロナ禍で仕事もありません。自治体等が正職員で雇用することや、登録型の通訳者を専門職にふさわしい待遇とすることが求められます」と要望します。