2020年7月20日(月)
主張
河井事件と首相
「責任を痛感」ではすまされぬ
河井克行前法相・衆院議員と妻・案里参院議員(ともに自民党離党)による昨年7月の参院選広島選挙区での大規模買収事件をめぐり、安倍晋三首相の姿勢に国民の厳しい目が注がれています。最新の世論調査では、克行氏を法相にした首相の責任は「重い」との回答が約7割に達します。首相は河井夫妻事件について「責任を痛感」と繰り返すだけで、実際に責任をとる行動は全くせず、事件の解明にも動こうともしません。そもそも、もっとも問われているのは、選挙での資金提供をはじめとする首相自身の関与です。
国民への説明ないまま
法務行政をつかさどる法相を経験した政治家が逮捕された事件は戦後かつてありません。起訴容疑は、案里氏当選のために100人の地方議員や首長、後援会員らに計約2900万円の現金を渡し、票の取りまとめを依頼したという悪質極まる公職選挙法違反(買収)です。2人の起訴後、広島県内を地盤にしていた亀井静香・元金融担当相の地元秘書にも300万円が渡っていたことが判明するなど深刻な広がりをみせています。
県内では受け取った側へも批判が強まり、辞職する首長や議員が相次いでいます。一方、河井夫妻は議員辞職に応じず、首相も自民党も辞職を求めていません。国民の声に逆らう姿勢は大問題です。
時事通信の世論調査(17日配信)では、克行氏の事件について、首相の任命責任を質問したところ、「重い」との答えが67・9%にのぼりました。自民党支持者でも「重い」は58・6%です。克行氏を側近として政権や党の要職に重用し、法相に起用した安倍首相が責任を免れないのは明白です。
地元組織の反対にもかかわらず、案里氏を選挙に担ぎ出したのは首相や菅義偉官房長官らといわれます。選挙では首相や官房長官らが応援に入っただけでなく、首相の地元秘書を支援に送り込むほどの体制をとりました。
なにより重大なのは、党本部から提供された1億5000万円もの巨額資金です。その8割にあたる1億2000万円は税金である政党助成金とされます。これらが買収の原資になった疑いは深まっているのに、首相らは「厳格なルールで運用されている」などと述べ、国民に説明しません。
自民党本部からの資金は河井氏側に何回かに分けて振り込まれ、その前後に、克行氏と首相は面会をしています。克行氏が、首相との面談資料として、案里氏陣営の予算や、首相の地元秘書の活動を報告する文書を作成していたとの報道もあります。党本部からの資金が買収に使われると知っていたなら、提供した側が「買収目的交付罪」に問われます。首相をはじめ政権中枢の責任につながる疑惑の徹底解明は不可欠です。
逃げ続けるのをやめよ
安倍首相は河井夫妻の逮捕や起訴の際、記者に問われ「責任を痛感している」「説明責任も果たさなければならない」などと述べましたが、それ以外は沈黙しています。予算委員会をはじめ国会の閉会中審査への出席にも応じません。
首相はこれまでも「政治とカネ」疑惑などで閣僚が辞任するたび「責任を痛感」と口にしますが、具体的な行動は全く伴っていません。口先だけの「責任」で逃げ続けることはもはや許されません。