2020年7月19日(日)
主張
骨太の方針
コロナからなにを学んだのか
安倍晋三内閣が2020年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)を閣議決定しました。「新型コロナウイルス感染症の下での危機克服と新しい未来」が主題です。医療の弱体化や非正規雇用の拡大など自ら進めてきた政策が危機を深刻化させたことには反省がありません。それどころか大企業が主導するデジタル化や成果主義賃金の促進などを盛り込みました。危機に乗じて財界の要求実現を一気に進める方針です。
医療機関に経営支援なし
感染症への対策として骨太方針は、検査体制の強化、「保健所の体制強化」を掲げますが、保健所を30年間で半分近く減らしたのは歴代の自民党政権です。それがコロナ危機で保健所のパンク状態を引き起こしました。日本医師会などが緊急に求めている医療機関への経営支援策は盛り込みませんでした。「医療提供体制の強化」を言うのなら保健所の増設・増員や医療機関への経営支援を明記し、公立・公的病院の再編・統合をやめるべきです。
骨太方針は社会保障予算の「自然増」圧縮や高齢者医療・介護の負担増など18年、19年の骨太方針が示した社会保障削減路線を着実に進めると宣言しています。コロナ危機から学ばない態度です。
雇用については、コロナ危機で増えたテレワークを「定着・加速」させると言います。テレワークによって長時間労働や不払い残業が横行しています。骨太方針は「就業ルールの整備」を掲げる一方、「ジョブ型正社員」の普及や「成果型」の労働時間管理、裁量労働制促進の方針を示しました。
ジョブ型正社員は、職務や勤務地、労働時間を限定する一方、賃金を低く抑え、解雇を容易にする不安定な雇用の仕組みです。裁量労働制は実労働時間の把握が難しく、長時間労働の温床となっています。「柔軟な働き方」の名で労働者の権利を侵害することは許されません。
コロナ後の「新たな日常」への対応として骨太方針は行政や社会の「デジタル化の遅れ」を強調します。大企業は膨大な個人情報をもうけの手段としています。骨太方針は「通常であれば10年かかる変革を、将来を先取りする形で一気に」と主張します。日本の個人情報保護は欧州と比べても不十分です。大企業が求めるままに突き進むことは危険です。
マイナンバーカードの活用も促進します。コロナ危機ではマイナンバーカードの利用を政府が押し付けたことで行政事務が混乱し給付金の支給が遅れました。銀行口座とマイナンバーの連結について「本年中に結論を得る」と言いますが、多くの国民が望まないことを性急に推進することは新たな不安を広げるだけです。長年にわたって公務員を減らし、公務サービスの提供体制を弱めてきたことこそ厳しく問われます。
財界主導政治を転換せよ
骨太方針を作成する経済財政諮問会議は政府と財界代表が一体となって経済財政政策の基本方針を毎年決め、次年度の政府予算案に反映させる場です。もっぱら財界の要求に基づいて政策や予算案を作成する手法では国民の苦難に寄り添う対策はできません。コロナ危機で求められているのは、国民の声を広く聞き、切実な要求をすみやかに実現する政治です。