2020年7月12日(日)
主張
デジタル課税
公正なルールづくりが急務だ
巨大IT(情報技術)企業に対するデジタル課税の国際交渉が年内の合意を目指して進められています。ところが米国のトランプ政権が抵抗を強めています。新型コロナウイルス感染症がまん延する中でIT大企業は巨額の利益をあげています。各国政府がコロナ対策の財源を緊急に必要としていることを考えても公正な課税ルールの確立が急がれます。
危機で増収のIT大企業
GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表される巨大IT企業はインターネットを通じて世界中に事業を展開しています。進出先の国に支店や工場を置かないことが多く、「物理的拠点」を持たないとの理由で法人税などの課税を免れています。このためIT大企業が海外で税を徴収されない不公正な事態が続いています。施設を持つ海外企業を課税対象とする現行税制がデジタル化、グローバル化の現実に合わなくなっているのです。
国連人権理事会に提出された報告書によると、コロナ危機によって世界で1億7600万人以上が極度の貧困に追い込まれています。他方、多国籍企業は推計40%の利益をタックスヘイブン(租税回避地)に移して課税を逃れ、世界の法人税率はこの40年間で平均40%から24%に低下しました。報告書は、「税の公平」がなければ貧困に対処できないと訴えました。
中でも税制の抜け穴となっているのがIT大企業です。米国のIT大企業はコロナ危機の中で、テレワークや電子商取引の需要増に乗って売り上げを伸ばし、株価が急上昇しています。経営者は大もうけしています。
米国の政策研究所などの共同調査によると、同国の億万長者の資産はIT企業の経営者を中心に3~6月の3カ月間で2割増となる5839億ドル(約63兆円)増えました。上位3人はいずれもIT長者といわれるジェフ・ベゾス(アマゾン)、ビル・ゲイツ(マイクロソフト)、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック)の各氏です。コロナ危機で得た利益を税を通じて還元させ、コロナ対策に有効に使う必要があります。
経済協力開発機構(OECD)と20カ国・地域(G20)で各国がデジタル課税のルールづくりに取り組んでいます。自国IT大企業の利益を第一とする立場から骨抜きを狙っているのがトランプ政権です。米国は新しくつくるデジタル課税の規則に従うか、現行税制のままにするかの選択を企業に委ねる案を示しています。これでは制度が機能しません。交渉が難航するもとでフランス、英国、イタリアが合意を待たず、独自のデジタル課税に踏み切りました。
米は妨害やめ交渉復帰を
これに対して米国は6月、交渉の中断を要求するとともに、独自のデジタル課税を導入した国に制裁を科すと脅しをかけました。制裁関税の発動に向けて、米通商代表部(USTR)は欧州連合(EU)や英国など10カ国・地域を調査対象としています。
欧州4カ国は米国に交渉復帰を働きかけています。しかし米国は10日、フランスに制裁関税を課すと発表しました。トランプ政権は妨害をやめ、協議に戻るべきです。日本はG20の昨年の議長国です。合意のために積極的な役割を果たすことが求められます。