2020年7月1日(水)
主張
香港の国家安全法
一国二制度の破壊は許されぬ
中国の立法機関である全国人民代表大会(全人代)常務委員会が香港の「国家安全維持法」を可決しました。香港での人権抑圧をいっそう強め、中国の国際公約である「一国二制度」を有名無実にする暴挙です。香港でも世界でも強い抗議の声があがっています。撤回すべきです。
中国当局の直接弾圧に道
国家安全維持法は「国家分裂」など四つの「犯罪行為」を刑罰で禁止し、以下のことを定めました。(1)香港に「国家安全維持委員会」を設け中国中央政府が「監督」する(2)中国中央政府の出先機関である「国家安全維持公署」を香港に新設して「国家安全維持業務」を「監督、指導」する(3)「特定の場合」には中国の国家機関が香港で管轄権を行使する(4)香港の法律と食い違う場合には国家安全維持法が優先し、法の解釈権は全人代常務委員会にある―などです。
昨年の逃亡犯移送条例改定反対運動をはじめ近年、大きく盛り上がる香港の民主化運動に対して、中国当局と、中国に従う香港当局は「国家安全を害する」として数々の暴力的な抑圧を加えてきました。昨年、香港警察は市民のデモに実弾まで使い、中国は軍事組織である武装警察を香港近くに展開させて武力で威嚇しました。国家安全維持法が制定されたことによって、市民的、政治的自由を求める香港住民の運動に対して中国当局が介入して直接弾圧することが可能になります。
同法は香港の立法機関である香港立法会で審理されず、全人代常務委員会だけの決定で一方的に押し付けられました。香港立法会主席に意見を聴取しただけで、審議中は条文すら一般に公表されず、香港住民の意思を聞く機会はありませんでした。当然踏まえるべき民主的手続きを無視して強行されました。法の内容も制定の手続きも香港の「高度な自治」を蹂躙(じゅうりん)しています。
中国政府は国際社会の批判を「内政干渉」として受け入れようとしません。重大な人権侵害は単なる国内問題ではなく国際問題です。中国政府は世界人権宣言、国際人権規約、ウィーン宣言を署名、支持しています。中国は本土でも香港でも人権と自由を尊重する国際的責務を負っています。
しかも一国二制度は1997年、英国の植民地だった香港が中国に返還された際、中国が世界に約束したことです。香港の地位を定めた香港基本法には国際人権規約の自由権規約が返還後も香港に適用されると明記しています。自由権規約は人権と自由の尊重を締約国に義務づけています。香港返還に関する中国と英国の共同声明でも中国は香港に言論、集会、結社の自由を保障すると誓いました。
人権保障取り決め履行を
国家安全維持法に対して、国連人権理事会の特別報告者ら約50人が「中国の国際法上の義務に反する」「容易に乱用や弾圧につながる」と共同声明を発表したのをはじめ、国際的な批判が広がっているのは当然です。この間、欧州連合(EU)、主要7カ国(G7)など多くの国際機関や各国が懸念を表明してきましたが、中国はすべて無視しました。
中国は一国二制度の国際公約に立ち戻り、自ら署名、支持してきた国際的な人権保障の取り決めを真剣に履行すべきです。