2020年6月12日(金)
きょうの潮流
彼の名はジョージ・フロイド。テキサス州ヒューストンで生まれ育った46歳のアフリカ系アメリカ人。娘が2人いてコロナの影響で仕事を失っていたという▼彼の名はジョージ・フロイド。5月25日、白人警官に膝で首を抑えつけられて死亡。8分46秒、息ができない、助けてくれ、ママと訴えながら。偽の20ドル札を使った疑いで拘束され、弟は「ジョージは誰も傷つけてなかった。黒人の命は20ドルの価値なのか」と問いかけた▼彼の名はジョージ・フロイド。その死は世界を変えた。警察の暴力や人種差別にたいする抗議のうねりは全米から各地へ。膝をどけろ、ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)と声を上げながら▼彼の名はジョージ・フロイド。その死は歴史をさかのぼらせた。根深い偏見のもとにある奴隷制度の見直し。これまで偉人とされてきた像は倒され、過去の映画の描写を問題視する動きも。肌の色で差別し、迫害することは悪だという流れがいっそう▼彼の名はジョージ・フロイド。葬儀のとき、めいは「もうヘイトクライム(憎悪犯罪)はやめて」と願い、「米国は一体いつ、偉大だったのか」と呼びかけた。怒りや不満の矛先は、分断と憎しみをあおってきたトランプ大統領に▼私たちはジョージ・フロイド。コロナ禍のなか、国境や人種のちがいをこえ、立ち上がる世界中の若者たち。悲しみをともにし、人権や命の尊厳を自分自身の問題としてとらえる。「正義なくして平和はない」。その姿は人類の希望。