2020年5月26日(火)
主張
コロナと格差社会
貧困が危機を深刻化させた
新型コロナウイルスの感染拡大の下で、経済的・社会的に立場が弱い人たちほど大きな犠牲を強いられる事態が続いています。その深刻さは、「経済的先進国」とされる国でも貧困国でも共通しています。格差と貧困を広げてきた21世紀の世界資本主義が、コロナ危機の中で改めて問われています。
2500万人失職の恐れ
国際労働機関(ILO)によると、コロナ危機によって職を失う人は世界で最大2500万人に達する可能性があり、その結果失われる労働所得は最大3兆4000億ドル(約360兆円)と推計されます。コロナ危機の社会・経済的影響をまとめた国連の報告書は「最も厳しい打撃を受けるのは中小企業、個人事業主、日雇い労働者」と指摘しました。
労働者と同じように働きながら個人事業主と扱われ、雇用保険、法定最低賃金がなく、労働者の権利も保障されない人たちが、各国で「フリーランス」「ギグワーカー」「雇用によらない働き方」の名で急増しました。野放図に増えたため実態すらつかめていません。コロナ危機は、フリーランスや個人事業主、日雇いの労働者がいかに無権利な状態にあるかを改めて示しました。危機に際して簡単に辞めさせられ、公的な補償からも抜け落ちかねません。使い勝手のいい労働力としてこの働き方を推進してきたのは大企業です。
ILOは「働きがいのある人間らしい仕事」(ディーセントワーク)を各国が実現すべき目標に掲げています。格差を克服するためには、権利が保障され、十分な収入を得られ、尊厳をもって働ける労働環境を確立していくことが欠かせません。
格差は、仕事や教育で情報通信技術(ICT)を利用できる環境があるかどうかによっても生じます。国連専門機関の国際電気通信連合(ITU)によれば、インターネット環境のない人は世界で36億人に上り、保健・医療の情報を得たり、学校のオンライン授業を受けたりすることが困難です。すべての人が自分のために情報技術を使えるよう、各国政府の取り組みが求められます。
国連によれば、世界の都市住民の20%以上、地方住民の50%以上が十分な医療を受けることができず、22億人が清潔な水を得られず、42億人が衛生施設が不備な中で暮らしています。感染症に無防備な環境です。主要国でも近年、公的医療が削減されています。貧困国や武力紛争が続く地域では新型コロナウイルスの感染状況すらつかめていません。ウイルスに国境はありません。途上国への支援は主要国の国民の命と健康を守ることにもつながります。
もうけ至上でいいのか
国連は、コロナ危機からの「よりよい再建」のため「持続可能な開発目標」の達成を改めて呼びかけています。貧困や飢餓の根絶、ジェンダー平等、気候変動対策など17の目標と、その詳細を定めた169のターゲットを2030年までに実現することが重要です。
誰もが健康で安心して暮らせる社会を実現する上で、大企業の金もうけを至上のものとする社会でよいのか―。格差を異常なレベルにまで拡大させてきた資本主義の矛盾がコロナ危機でいっそう顕在化する中で、世界全体に突き付けられた課題です。