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2020年5月18日(月)

コロナ危機は日本と世界のあり方を問うものとなっている

志位委員長の発言

 新型コロナウイルスの世界的感染拡大で、国際的に政治と社会のあり方が根本から問い直される状況になっています。この問題について日本共産党はどう考えるのか。志位和夫委員長は14日、記者団から「いわゆる『ポストコロナ』についてどういう社会像を目指すべきだと考えるのか」と問われ、次のような見解を述べました。(整理・加筆を行っています)


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 いま起こっている新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、人類の歴史のなかでも最も深刻なパンデミックの一つになっていると思います。

 いわゆる「ポストコロナ」ということとの関わりで、私がいま考えていることを若干、述べますと、このパンデミックは、「日本と世界のあり方はこれでいいのか」ということを問うものとなっていると思います。いろいろな角度があると思うんですが、三つほど言いたいと思います。

新自由主義の破綻が明らかに――政策の大転換が必要

 一つは、新自由主義の破綻が明らかになったということです。新自由主義――すべてを市場原理にまかせて、資本の利潤を最大化していこう、あらゆるものを民営化していこうという流れが、今度のパンデミックによって破綻がはっきりしました。

 それは、EU(欧州連合)によって医療費削減などの緊縮政策を押し付けられた国ぐにが大きな犠牲を強いられているということを見ても明らかです。

 日本を考えてみても、「構造改革」の掛け声で、医療費削減政策が続けられ、急性期のベッドを減らしていく、公立・公的病院を統廃合していく、どんどん保健所を減らしていく、こういうやり方によって、日常的に医療の逼迫(ひっぱく)状況をつくってしまったことが、こういう危機に対してたいへんに脆弱(ぜいじゃく)な状態をつくりだしています。

 雇用を考えても、労働法制の規制緩和を続けて、「使い捨て労働」を広げてしまった。人間らしく働けるルールを壊してきた。そのことの矛盾が、いまコロナ危機のもとで、派遣やパートで働く人々の雇い止めという形で噴き出しています。

 新自由主義による社会保障・福祉の切り捨て路線を転換して、社会保障・福祉に手厚い国をつくる、労働法制の規制緩和路線を転換して、人間らしい労働のルールをしっかりつくりあげていくことが強く求められていると思います。

 経済全体のあり方も、これまでのような、一方で内需・家計に犠牲を負わせながら、もっぱら外需に依存してきた経済のあり方、さらには、人々のケア(医療・介護など)に必要な物資、食料、エネルギーをも海外に頼ってきた経済のあり方が、この機会に見直されるべきだと考えます。内需・家計を経済政策の軸にすえる、人間の命にとって必要不可欠なものは自分の国でつくる――そういう経済への転換が求められているのではないでしょうか。

 そして強調したいのはジェンダーの視点です。パンデミックのもと、ジェンダー差別が深刻となる事態も起こっており、コロナ対策でもジェンダーの視点をつらぬくこと、ジェンダー平等社会をつくっていくことも、切実な課題となっていると思います。

資本主義のもとでの格差の異常な広がり――危機のもとで顕在化し、激化している

 二つ目に、私は、資本主義という体制そのものが、今度のパンデミックで問われているように思います。

 今年1月の党大会で、私たちは綱領一部改定を行い、世界資本主義の矛盾の集中点として、格差拡大と環境破壊ということを特に綱領に明記しました。今度のパンデミックというのは、世界資本主義の矛盾の二つの集中点で、矛盾が顕在化し、激化しているというのが現状だと思います。

 格差拡大という点では、ウイルス自体は富めるものと貧しいものを区別しませんが、感染症による犠牲は、富めるものと貧しいものに平等に降りかかっているわけではありません。一番の犠牲になっているのは貧困のもとに置かれている人々です。

 アメリカの状況をみましても、黒人やヒスパニックの方々のなかで死者が多い。格差拡大という問題がパンデミックのもとアメリカでも大問題になっています。日本でも、経済的・社会的に弱い立場に置かれている人々に大きな犠牲が強いられています。

 格差拡大の問題は、先進国の内部の問題だけではありません。先進国と途上国の格差拡大の矛盾もパンデミックのもとで噴き出しています。とくに多くの途上国で、医療体制などが弱いもとで、多くの犠牲が出ることが強く懸念されています。

 21世紀の資本主義のもとでの格差の異常な拡大――先進国の国内でも、世界的な規模でも、格差が異常なレベルまで拡大している、その矛盾が、パンデミックのもとで顕在化し、激化しています。パンデミックは、「こういう体制を続けていいのか」という問題を人類に突き付けているのではないでしょうか。

背景に無秩序な生態系への侵入・環境破壊――気候変動と同じ根をもつ

 資本主義の体制的矛盾にかかわって、もう一つ、この体制のもとでの地球規模での環境破壊という問題が、パンデミックに深くかかわっています。

 人類の歴史のなかで、感染症の流行は、人類が定住生活を始めたとき以来のものと言われています。

 ただ、この半世紀くらいは、新しい感染症がつぎつぎと出現しています。エイズ(後天性免疫不全症候群)、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)、今回の新型コロナウイルス感染症などです。半世紀で数十の新しい感染症が出現しているといわれています。(厚生労働省によれば、ここ30年の間に少なくとも30の感染症が新たに発見されています)

 なぜそうなるのか。一つの背景として、多くの専門家が共通して指摘しているのが、人間による無秩序な生態系への侵入、環境破壊、これらによって動物と人間の距離が縮まって、それまで動物がもっていたウイルスが人間にうつってくる。そういうことによって新しい感染症が出現する。あるいは地球温暖化によって、すむ場所を奪われた動物が人間と接触する。こういう問題も言われています。

 私は、先日、「改定綱領学習講座」のなかで、地球規模での気候変動について、マルクス『資本論』の一節を引用して、資本主義のもとでの「物質代謝の攪乱(かくらん)」ということを述べました。「攪乱」の結果があらわれるスピードは、気候変動とパンデミックは全く違いますが、利潤第一主義のもとでの「物質代謝の攪乱」という点では、両者は同じ根をもつものといわなければなりません。感染症の多発という問題の背景にも、資本主義の利潤第一主義のもとでの自然環境の破壊という問題が横たわっているのです。

 こうして、格差拡大という点でも、自然環境の破壊という点でも、利潤第一主義を本性とする資本主義という体制そのものが、私は、パンデミックのなかで問われていると思っております。

 環境破壊を顧みることのない利潤第一主義という生産様式を変えなければ、新型コロナを収束させたとしても、次のより危険なパンデミックに襲われる可能性もあることを、指摘しなければなりません。

 格差の問題、環境破壊の問題は、もちろん資本主義のもとでもその解決のために最大の力を注がなければなりません。同時に、今回のパンデミックは、資本主義という体制を続けていいのかを問うものともなっていると思います。

国際社会の秩序が試されている――多くの国ぐにと民衆の連帯で危機の克服を

 三つ目に、国際社会の秩序が試されているということです。端的に申しまして、このような深刻なパンデミックに遭遇しても、国際社会がこれに協調して立ち向かえているとはいえないという問題があります。

 一方で、世界最大の資本主義大国であるアメリカが、「自国第一主義」の立場に立ち、国際的な協力によってパンデミックを乗り越えるという取り組みに背を向けているという大きな問題があります。WHO(世界保健機関)に対する拠出金を停止するなどというふるまいは、――この機関の新型コロナへの対応に対して今後検証が必要になる問題点があるにしても――愚かというほかなく、アメリカへの信頼をいよいよ低下させるだけといわなければなりません。

 他方で、世界第2の経済大国である中国は、人権侵害と覇権主義という体制的な問題点が、パンデミックを通じて現れています。中国の初動の遅れは、明らかに人権の欠如という体制の問題点と結びついたものでしたし、中国指導部が、パンデミックのもとでも東シナ海、南シナ海などでの覇権主義的行動をやめようとしていないことも、国際協調にとって障害となっています。

 こうして、危機のもと米中双方が対立しあう、覇権争いをするという状況が、残念ながらいま生まれています。

 そういうもとで、国連安全保障理事会が機能していません。これは非常に残念な事態であります。感染症については、たとえば米ソ冷戦のさなか――米ソが核兵器の軍拡競争をやっている最中でも、天然痘根絶プログラムでは米ソは協調しました。ポリオについても生ワクチン実用化にむけて米ソ協力が行われました。最近でも、エボラ出血熱が2014年に問題になったときには、アメリカもオバマ政権が積極的に対応して、安保理決議によって、「国連エボラ緊急対応ミッション」の設立がうながされ、国際的な協調でエボラウイルスを抑え込みました。

 ところが今回は、そうした国際的な協調がいまやれないでいるというのは、非常に大きな問題だと、私は思います。

 パンデミックは、すでに途上国でも大変に深刻な事態になっています。今後さらに途上国で深刻化することが共通して危惧されています。

 私は、米中に対して、覇権争いをやっているときではない、この問題については協調すべきだと言いたい。パンデミックの収束のために米中は世界に対する責任を果たすべきだと強く言いたいと思います。

 何よりも、世界の多くの国ぐにと民衆が連帯して、このパンデミックを乗り越えることが強く求められていると思います。日本での収束とともに、そのために力をつくしていきたいと考えています。

 人類がこの危機に際して、そうした連帯と協力ができるかどうかによって、次の世界のあり方も決まってくるだろう――こう私は考えています。

 何よりも目の前にある死活的な仕事――新型コロナウイルスを収束させ、国民の命と暮らしを守り抜く仕事をしっかりとやりながら、コロナ収束の先は、前の社会に戻るのでなく、日本でも世界でも、よりよい社会をつくっていく。改定綱領を力に、そういう展望をもって頑張りたいと思います。


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