2020年5月10日(日)
主張
陸上イージス
配備計画そのものを撤回せよ
陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」をめぐり、複数の政府関係者が陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)への配備を断念したことを明らかにしました。一方、河野太郎防衛相は同演習場への配備断念とのメディア報道は「フェイク(虚偽の)ニュース」だとして否定に躍起です。重大なのは、安倍晋三政権がイージス・アショアの配備計画そのものを諦めようとしていないことです。しかし、新型コロナウイルスによる危機の下、超高額兵器であるイージス・アショアの導入が「不要不急」の代物であることはいよいよ鮮明になっています。
新屋への配備断念は当然
イージス・アショアは、弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とす米国製「ミサイル防衛システム」の一つで、従来のイージス艦ではなく陸上に配備されます。トランプ米政権の強い圧力の下、安倍政権が導入を決め、新屋演習場と陸自むつみ演習場(山口県萩市)の2カ所に配備する計画でした。
防衛省は、新屋演習場を配備候補地として「適地」とする報告書をまとめる際、現地調査をしないでインターネットの地図ソフト「グーグル・アース」を使った上、縮尺を間違えるというずさん極まりないミスを犯しました。しかも、そのミスを謝罪する住民説明会で同省職員が居眠りをする失態まで演じました。同演習場は住宅地に近接し、住民らが強く反対しており、秋田県の佐竹敬久知事や自民党県連も見直しを求めていました。配備断念はあまりにも当然です。
同時に、安倍政権は、むつみ演習場に配備する計画は変えていません。しかし、同演習場に隣接し、配備反対を表明している山口県阿武町の花田憲彦町長は、新屋演習場への配備断念は住宅までの距離を考慮に入れたためだと思われるとし、「むつみ演習場近くにも住宅はあり、同じ考え方で撤回するしかない」と述べています(「朝日」8日付)。安倍政権はこうした声に応えるべきです。
防衛省は、新屋演習場に代わる新たな候補地の選定作業を秋田県内を軸に進めています。イージス・アショア2基で日本全域をカバーするには、東日本で秋田県、西日本で山口県にそれぞれ1基配備する必要があるとしているためです。
しかし、イージス・アショア導入の口実となった北朝鮮の弾道ミサイルはハワイに向かう際は秋田上空を通過し、グアムに向かう際は山口上空を通過することが判明しています。米シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)の論文「太平洋の盾 巨大なイージス艦としての日本」は、日本のイージス・アショアをハワイやグアムの防衛のためだとあけすけに述べています。狙いは明らかです。
コロナ対策の財源に回せ
イージス・アショアは、米政府の見積もり次第で価格が決まる「対外有償軍事援助」(FMS)などで調達され、日本配備にかかる総経費は1兆円を超える可能性もあると指摘されています。「日本防衛」のためではなく、米国のミサイル防衛システムの強化のために日本が巨額の財政負担を強いられるものに他なりません。
安倍政権は、イージス・アショアの配備計画自体を撤回すべきです。その財源は、コロナ禍に苦しむ国民への医療体制強化などのために使うことが求められます。