2020年5月1日(金)
院内感染相次ぐ東京都内
町医者 頑張る
医療崩壊防ぎたい
新型コロナウイルスの院内感染が相次ぐ東京都内で、患者と医療スタッフの210人が感染し、患者37人が亡くなっている永寿総合病院(台東区)。外来診療が休止してから1カ月がたちました。医療崩壊を防ぎ、地域住民の健康を支えようと協力する近隣の診療現場を訪ねました。
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永寿総合病院から徒歩十数分の蔵前協立診療所。3月末から、一般の外来とは別の階の部屋で、感染の疑いがある患者の診察を始めました。
安心させたい
「永寿は仲間だから助けてあげなあかんなと。こっちで中等度以下の症状の人をある程度、抱えてあげないと話にならない。それに、不安にかられている患者を早く安心させることも町医者としての大切な仕事だと思うからです」。所長の原田文植(ふみうえ)医師は語ります。
厚生労働省はこの間、発熱などの症状が4日以上続かないと保健所などへの相談対象とはみなさず、自宅での経過観察を促してきました。しかし、同診療所では4日待機することなく受け入れています。
言葉かけ大切
「待たされた揚げ句、病院をたらい回しにされ、検査を受けられても、陽性になったら面会も謝絶ですよ。今まで見たこともない医師のもとで、わけもわからないままICU(集中治療室)に入れられる。気力をなくしては、治る病気も治らなくなってしまう」
町医者が早い段階で診断することによって、そのようなケースがかなり避けられるのではないかと原田さん。通常、病気が治っていく上で大切なのは、医師らの言葉かけや人間関係だと思うと話します。
かぜ症状などで自分も感染したのではと、不安に押しつぶされる思いをしている人も少なくありません。「どこに行っても診てもらえず、うちの外来に来て泣き出した人もいました。そういう人たちに一人ひとりの日常生活、活動に応じた助言をし、安心させることができれば、意外と効果があるんです」
入院受け入れがひっ迫する中、同診療所を受診した人は入院まで至ることなく「持ちこたえている」といいます。
感染疑いのある人を受け入れるにあたって、風評被害などを受けるリスクも当然、予想しました。防護具など行政の支援も何もない中でのスタート。感染防止のための区域分け(ゾーニング)は、感染制御マニュアルの本を見ながら手探りで工夫しました。
「それでも地域の人たちがこの間、お手製の防護具などいろんなものを届けてくれ、協力してもらっているから本当にありがたい」
診察室の傍らには、インターネットでダウンロードした型紙から、透明なアクリルシートを切って作られたフェイスシールドがあります。
「風評被害も耳に入らないところであるとは思いますが、受診した患者さんは安心した表情で帰っていかれます。この人たちが健康で元気なことが何よりであって、ここが踏ん張りどころやとスタッフに言っています」
原田さんは、かつて国立感染症研究所で研究していた経験があります。「楽観はできませんし、これまで亡くなられた方のことを考えれば心苦しいけれど、日本の致死率は欧米と比べると高くない。コロナは人の寿命を大幅に縮める手に負えない病気ではないと私は思います。医療崩壊さえ防げば乗り切ることができる。そのためにも症状を診断する検査体制の拡充が急がれます。そして、永寿のような院内感染の現場を助けるため、全国の町医者ができることをやろうと立ち上がる時だと考えます」(岡素晴)